金正恩がもたらすもう一つの危機。 ”イーグル日記⑬” | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 


 

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金正恩がもたらすもう一つの危機 日米対話の焦点を中国に絞れ

【田村秀男の日曜経済講座】

http://www.sankei.com/economy/news/170423/ecn1704230002-n1.html

 

 トランプ米政権が対中通商強硬策を取り下げた。図らずもだが、米中を橋渡ししたのは核とミサイルを振り回す北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長である。トランプ氏は「ならず者」を抑え付けるのは習近平国家主席しかいないと判断したのだが、国際貿易ルール無視の中国が増長しかねない。日本は米国との経済対話の焦点を中国に絞るべきだ。

 

 トランプ氏は大統領就任前、中国からの輸入品に45%の高関税をかけると息巻き、オバマ政権までの「一つの中国」政策放棄までちらつかせたが、2月に北朝鮮が長距離弾道ミサイル実験をするや、電話で習氏に「一つの中国」維持を伝えた。4月7日にフロリダで習氏と会談した後の12日には「中国を為替操作国に認定しない」と言明。トランプ氏はツイッターで「北朝鮮問題でわれわれに協力する中国を為替操作国とどうして呼べる?」と弁明した。

 

 筆者と東京で出くわした中国軍関係者によれば、「米中関係を覆う曇りは解消し、今後50年間は安定する」。中国人にありがちな「白髪三千丈」の類い話とは決めつけられない。金体制が維持され、挑発を繰り返す限り、米国が中国に抑止を頼み続けるので、長期的に見て米中貿易戦争は起こらない。ワシントンが黙れば、人民元を含む中国共産党による市場支配への海外からの逆風もやむ。

 

 トランプ氏から為替操作国と指定された場合、北京が無理やり人民元を切り上げるしかない。当然、金融を厳しく引き締めざるをえず、過剰生産設備を抱える国有企業が一斉に経営破綻する。こうした恐れが北朝鮮のおかげで吹き飛んだ。

 

 国際金融市場の利害が反映する英フィナンシャル・タイムズと米ウォールストリート・ジャーナルは米中貿易戦争ともなれば、市場が大きく混乱すると警告してきた。しかし、アジアで中国と対峙(たいじ)する日本が欧米の声に唱和するわけにはいかない。

 

 習政権は「一帯一路」構想を掲げ、アジア全域の陸と海のインラフを北京に直結させ、中華経済圏化しようともくろむ。インフラは軍事転用可能で、南シナ海への海洋進出と同じく、軍事面での膨張策と重なる。北京で2016年初めに開業したアジアインフラ投資銀行(AIIB)はその先兵だ。

 

 ドルに連動させる為替操作が米国に黙認されたのを奇貨として、AIIBは中国人民銀行が発行する人民元を使ってインフラ資金を融通するだろう。米中首脳会談では、習氏がトランプ氏に対し米国のAIIB参加を懇請した。トランプ氏が応じれば、AIIBは国際金融市場での地位を固められると踏んだからだ。

 

 日米間では18日に、2月の首脳会談で合意した経済対話の初会合が開かれた。そこで決まったのは貿易・投資ルール、経済・財政政策、個別分野の3つの柱だが、中は空白だ。米側代表のペンス副大統領は2国間貿易協定の締結を示唆したが、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)など多国間協定主義の日本とはかみ合わない。このままでは、「対話」が日米を離反させる結果になりかねない。

 

 とにかく芯が必要だ。それは中国という共通項だ。

 

 懸案はAIIBばかりではない。中国には世界貿易機関(WTO)ルールが通用しない。知的財産権侵害もダンピング輸出も止まらない。外資には出資制限を課し、技術移転を強要する。企業が中国から撤退しようとすれば身ぐるみはがされる。突如、海外送金も止められる。党幹部による裁量が優先し、公正な裁判どころではない。金融市場は規制緩和どころか、強化される一方だ。この結果、不動産開発などバブル融資が繰り返され、企業や地方政府の債務膨張が止まらない。これらだけでも日米対話の柱の内部を埋めつくすだろう。

 

 トランプ政権が中国を偏重するのは米経済にとって不合理である。グラフは米国のモノの貿易赤字と海外からの米国債など証券購入を合算した資金流出入である。世界最大の債務国米国は外部からの資金流入に依存する。貿易赤字は大きくても、相手国がその分を対米証券投資で還流させれば、米金融市場は安定する。一目瞭然、日本は対米貿易黒字分を上回る資金を米証券市場につぎ込んでいる。

 

 対照的に、中国は米国に貿易黒字を証券投資で還流させない。昨年は年間3500億ドルの黒字に加えて1300億ドルの証券を売却している。日本は米金融市場のいかりであり、中国は機雷も同然だ。経済対話の日本側代表、麻生太郎副総理兼財務相はしっかりと米側にクギを刺すべきだ。

 

(編集委員)