上海株暴落不安は恒常化。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

sankei express【国際政治経済学入門】マネー流出 上海株バブル崩壊は必至
2015.7.1 

 中国人民銀行の利下げにもかかわらず、上海株の下落が止まらない。ギリシャのデフォルト(債務不履行)騒ぎに伴う世界的な株安のあおりもあり、訪欧中の李克強首相が欧州連合(EU)首脳にギリシャのユーロ圏残留を催促する始末だ。だが、ギリシャ問題がなくても、上海株バブルの崩壊は不可避であり、下落に歯止めがかかるメドは立たない。

 利下げで信用取引活況

 上海株は6月30日も急落を続け、総合株価指数は6月12日のピーク時に比べて25%下がった。上海株価は昨年11月から6月初旬までの8カ月間で2倍に上がった。景気低迷や企業の業績不振が続く中での株高で、バブル状態にあることは明白にもかかわらず、利下げなど当局による株高誘導策にあおられた個人投資家が株買いに熱狂してきた。

 


中間層や富裕層は不動産相場が上昇局面にあるときは不動産に投資し、党中央が株価引き上げ策に転じたとみるや株式市場に殺到してきた。公務員や国有企業の幹部の中には、習近平政権による綱紀粛正のために、給与外利得機会がなくなった勤め先を早期退職し、株式投資に専念する者も続出していた。

 株式投機熱を支えてきたのは、信用取引である。投資家が証券会社からカネを借りて株式投資する。人民銀行が利下げすると、証券会社の資金調達コストと投資家の借り入れコストが下がるので、信用取引が活発になる。証券会社は投資家への貸し出金利収入が大きな収益源になるので、新規株式公開(IPO)や増資で自己資本を拡充し、貸出余力を大きくしてきた。

 銀行も信用取引に大きく関与する。証券会社が信用取引をする投資家に資金を貸し出すと、銀行はそのローンを担保にとって証券会社に融資をして金利収入を得る。株価が上昇している間は、投資家から証券会社へ、そして銀行へと順調に資金が返済されるが、今回のように株価が急落を続けると、値上がり益に頼る投資家は期限までに返済できなくなり、証券会社が損失を被り、ひいては銀行にとっての不良債権になりかねない。

 グラフは上海株価指数と信用取引による信用買い残高(兆円換算)である。人民銀行は昨年11月、今年3、5月、そして6月に利下げしたが、そのたびに信用取引がぐんと伸び、株価上昇に弾みがついてきた。

 党中央の指令下にある中央銀行である中国人民銀行の利下げが株価引き上げ策となる仕組みである。北京の株式市場監視当局は市場の過熱を警戒して信用取引の制限を検討したが、人民銀行は実体景気の刺激の必要に迫られて利下げせざるを得ないのだから、信用取引拡大は抑えようがない。

 外資動向に翻弄され

 株価暴落の引き金を引いたのは、党中央によるもう一つの株価引き上げ策である。それは昨年11月の利下げとほぼ同時期に実施した上海と香港の株式の相互取引による上海市場への外国人投資家の呼び込みだ。香港市場を経由すれば外国人投資家が初めて中国政府の認可なしに上海株に投資できるようにした。利下げ効果と相まって国内の個人投資家の投資意欲を喚起し、上海株価は上昇気流に乗った。しかし、香港経由の外国人投資は出入りが目まぐるしい。

 6月18日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙電子版によると、6月3日までの1週間で中国証券市場に外資が73億ドル流入し、翌週は68億ドル流出したという。相場がバブル崩壊寸前とみるや、いち早く撤収する外資に上海市場が翻弄される。

 北京が株価引き上げに躍起となる理由は、本土外からの資金流入を必要とするからである。バブル崩壊状態にある不動産市場に代わる資産市場からの資金流出が続いており、中国の外貨準備は急激に減少している。中国の国際収支統計から推計すると、合法、非合法を含めた中国からの資金流出は、四半期ベースでみて、昨年6~9月期が960億ドル以上、10~12月期は1200億ドル強となり、今年1~3月期にはさらに加速し1900億ドルを超えた。昨年8月には4兆ドルまで迫った外準は2400億ドル近く減った。

 株価暴落とともに、さらに資金の対外流出が加速すれば、多国間銀行を装ったアジアインフラ投資銀行(AIIB)を通じて、国内の資金不足を補うしかなくなるだろう。
(産経新聞編集委員・特別記者 田村秀男/SANKEI EXPRESS)

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