世界一いやらしい部隊。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【防衛最前線】

哨戒機P3C
職人芸で敵潜水艦を追い詰める「世界一いやらしい部隊」


流氷が広がる海面上空を航行する海上自衛隊の哨戒機P3C(海上自衛隊提供)


 流氷と自衛隊。あまり関係がなさそうな両者には長い歴史がある。

 海上自衛隊八戸航空基地(青森県)に拠点を置く第2航空群は、昭和35年から毎年、北海道近海の流氷観測を行っている。気象庁の要請を受け、オホーツク海などを航行する船舶の海難防止に役立てる。年10回行っており、今年4月で1090回に達する。

 「間もなく降下します。シートベルトを締めてください」

 記者団に流氷観測が公開された4日、P3Cの乗員がそう告げると機体が小刻みに揺れ始めた。しばらくすると、大小の流氷が複雑な紋様を描いて大海原に広がっていく。高度約150メートルの低空飛行では、手を伸ばせば海氷に届くかのような錯覚に陥る。

 もちろん、哨戒機P3Cの役割は流氷観測だけではない。かつて「対潜哨戒機」と呼ばれたように、日本周辺海域を航行する潜水艦の警戒・監視が主要な任務だ。

 捜索用レーダー、熱源を探知する赤外線暗視装置、鉄の塊である潜水艦が航行することで生じる磁場の乱れをつかむ磁気探知機(MAD)、敵が発する電波を手がかりに位置を特定する電波探知装置(ESM)、そして海中に投下し潜水艦のスクリュー音をとらえる音響探知機(ソノブイ)。ハイテク機器を駆使して敵潜水艦を追い詰めるP3Cだが、海自関係者は「最後は人間の目がものを言う」と口をそろえる。

 訓練では海自の潜水艦が“敵”としてP3C部隊と攻防戦を繰り広げる。ある海自の潜水艦乗組員は「日本のP3C部隊は世界一いやらしい部隊だ。米国の部隊と比べても、逃げるのが難しい」と明かす。P3Cパイロットは「一度発見した潜水艦を見失うなんてことがあれば、恥ずかしくて基地に帰れなくなる」と語り、こう続ける。

 「レーダーや音響のデータを分析して敵潜水艦を見分ける技術は職人芸のように徒弟制度で伝えられる。こういう分野は日本人が得意とするところだ」

 P3C部隊は2人のパイロットのほか、警戒・監視に必要な情報を集約して指示を出す戦術航空士(TACCO)、音響やレーダーなどを分析する対潜員ら11人で構成される。このチームワークで敵潜水艦を捜索し、追い詰め、有事となれば攻撃するのだ。

 流氷観測を行う第2航空群の担当地域は日本海北部や北海道周辺海域。冷戦時代は旧ソ連海軍の動向を探る最前線と位置付けられていた。近年になって再びロシア海軍の動きが活発になっているとはいえ、冷戦後の焦点は中国が海洋進出を進める南西方面に移っている。

東シナ海南部をカバーする第5航空群(那覇航空基地)には全国各地のP3C部隊がローテーションで応援に駆け付けている。第2航空群も例外ではない。ある隊員は「しょっちゅう沖縄に行っているので、沖縄土産を買って帰っても家族があまり喜ばなくなった」と苦笑する。

 “出張先”は沖縄だけではない。P3C部隊はアフリカ東部ソマリア沖・アデン湾で海賊対処活動も行っており、これも各航空群が順番で派遣される。北方海域の警戒・監視、流氷観測、沖縄派遣、海賊対処活動。これに遭難船舶の救助活動も加わる。

 海自はP3Cの後継機として最新鋭国産哨戒機P1の導入を進めているが、約70機の入れ替えが完了するまでは四方の海に目を光らせ、耳を澄まして敵の動向を探ることになる。
(政治部 杉本康士)