「核=Nuclear、生物=Biological、化学=Chemical」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【防衛最前線】

NBC偵察車
1台で核兵器、生物兵器、化学兵器に対応
テロに備えるマルチプレーヤー。


1両で核兵器、生物兵器、化学兵器に対応する陸上自衛隊のNBC偵察車

 平成7年のオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生してから20日でちょうど20年となる。13人が死亡し、6000人以上が重軽症を負った未曾有のテロ事件で使われたのは、体重70キログラムの人で致死量0.7グラムの化学兵器だった。

 「原因不明で大勢の人がバタバタと倒れる状態を想像してほしい。大量破壊兵器の使用が疑われるが、その原因が化学兵器なのか、生物兵器なのか分からないとなると、NBC偵察車が有効になる」

 化学部隊での経験が長い陸上自衛官はこう語る。核、生物、化学の大量破壊兵器は甚大な被害を無差別に生み出す。テロや他国軍からの攻撃を受けた場合、いち早く現場に駆け付け、汚染状況を把握し、その後の除染につなげるのが陸自のNBC偵察車だ。

 「NBC」とは「核=Nuclear、生物=Biological、化学=Chemical」の略称。そのすべてに対応できるマルチプレーヤーとして、中央特殊武器防護隊(さいたま市)や各師団の化学部隊などに17両が配備されている。密閉された車内には空気清浄装置が取り付けられ、隊員は車外に出ることなく作業を行うことができる。

 NBC偵察車が陸自に導入されたのは24年3月だ。かつての自衛隊は有毒化学剤と放射性物質を検知するための化学防護車しか保有しておらず、生物兵器の汚染状況を把握する車両はなかった。

2001(平成13)年9月の米中枢同時テロ直後に発生した炭疽(たんそ)菌事件を受け、自衛隊も生物兵器への対策を迫られた。当時は1両でNBC兵器すべてに対応できる装備は海外でもまだ開発中だったため、防衛省は国産車両の開発に着手、開発が完了するまでの“つなぎ役”として生物偵察車を17年に導入した。

 NBC偵察車に搭載された検知装置には中性子線の測定機能も追加されたほか、これまで十数分間で行われた化学剤の検知が約20秒で済むようになった。液状の化学剤を検知することもでき、検知対象はテロに用いられる恐れがある産業廃棄物など十数万種類に広がった。

 従来の化学防護車は、司令部や他部隊との連絡を無線で行っていたが、NBC偵察車には味方同士で情報を共有する「データリンクシステム」を搭載した。汚染状況をリアルタイムで共有することで、部隊間の円滑な連携を促す。

 多種多様な検知装置を搭載したことで、副産物ももたらされた。

NBC偵察車や化学防護車の車内は清浄な空気を保っているが、隊員は車外に出て汚染物質を採取する任務に備えて防護服を着用する必要がある。だが、従来装備にはクーラーは取り付けられず、夏の暑い時期は30分間の作業が限界とされていた。「隊員が快適に過ごすための予算は認められない」(陸自関係者)というのが理由だったが、NBC偵察車では機器が過熱することを防ぐことを目的としてクーラーが備え付けられた。

 実戦配備されて以降、NBC偵察車が実際のテロ現場や災害救援に投入されたことはない。しかし、日本は周辺国から核の脅威にさらされており、テロの危険がどこに潜んでいるかも分からない。NBC偵察車はその時に備えている。
(政治部 杉本康士)
産経ニュース