【中高生のための国民の憲法講座】
産経ニュース第85講 国歌斉唱をめぐる最高裁判決 百地章先生
国歌斉唱をめぐる最高裁判決をみてみましょう
今年も卒業式シーズンを迎えましたが、国旗国歌をめぐるかつてのような激しい混乱はみられなくなりました。
これも平成11年に国旗国歌法が制定され、教育関係者の皆さんが教育正常化のため大変な努力をされてきたからだと思います。
憲法19条に違反せず
それとともに、最高裁が19年の「ピアノ伴奏拒否事件」以来、国歌斉唱時の起立や斉唱を繰り返し合憲としてきたことが大きいのではないでしょうか。
ピアノ伴奏拒否事件は、公立学校の音楽教師が校長の職務命令に従わず、国歌斉唱時のピアノ伴奏を拒否したため戒告処分受けたことに対して、職務命令は憲法違反であるとし、処分の取り消しを求めた事件でした。
これに対して、最高裁は19年2月27日、職務命令を合憲としました。
判決は、ピアノ伴奏は音楽教師の歴史観や世界観自体を否定するものではなく、特定の思想を持つよう強制したり禁止したりするものではないから、憲法19条の思想、良心の自由に違反しないとしました。
その後、23年5月30日、最高裁は「国歌起立斉唱拒否事件」において、教員に対して国旗掲揚時の起立や国歌斉唱を命じた校長の職務命令は憲法に違反しないとの判決を下しました。
国歌斉唱の際に起立することは儀礼的なものであって、職務命令は教員の歴史観や世界観を否定したり、特定の思想を持つことを強制したりするものではない、それゆえ思想、良心の自由の侵害には当たらないというわけです。
公務員として遵法義務
さらに、最高裁は24年1月16日、「起立命令違反懲戒処分事件」でも、起立を命じる校長の職務命令を合憲としています。
他方、一連の最高裁判決は、国旗国歌法が「日の丸」を国旗、「君が代」を国歌と定めていること、さらに学習指導要領は学校の儀式行事において国旗を掲揚し、国歌を斉唱するよう定めていることをあげ、公立学校の教員は公務員として法令や職務上の命令に従わなければならないとしました。
これも当然であって、最高裁判決が下されなければ平気で起立や国歌斉唱を拒否する教師が絶えないというのは異常です。
他方、最高裁判決でも、23年、24年判決には不満がないわけではありません。23年判決は、起立斉唱という行為は国旗国歌に対する敬意の表明の要素を含んでおり、「日の丸」や「君が代」に対して敬意を表明したくない者にとっては思想、良心の自由の「間接的な制約」になる、などといっているからです。
しかし、仮に不満や不快感を覚えたとしても、思想、良心の自由の侵害とは別ですから、判決がわざわざこのような言及をしたことには違和感を覚えます。
また、24年判決は、「戒告処分」以上に重い「減給処分」や「停職処分」を行うためには慎重な考慮が必要であるといいますが、違法行為を繰り返す教員に対して甘すぎないでしょうか。民間や私立学校では考えられないからです。
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【プロフィル】百地章
ももち・あきら 京都大学大学院法学研究科修士課程修了。愛媛大学教授を経て現在、日本大学法学部教授。国士舘大学大学院客員教授。専門は憲法学。法学博士。比較憲法学会理事長。産経新聞「国民の憲法」起草委員。著書に『憲法の常識 常識の憲法』『憲法と日本の再生』『外国人の参政権問題Q&A』など。68歳。