【国防女子の構え】
予備自衛官補の訓練 気づいた日本社会の国防意識の低さ
ZAKZAK 夕刊フジ射撃訓練を行う予備自衛官補
「予備自衛官補」という制度を、ご存じだろうか?
もともと、予備自衛官には元自衛官がなるのが常であった。だが、防衛基盤の育成・拡大を図り、予備自衛官の数を安定的に確保するとともに、民間の専門技術を有効に活用するため、自衛隊未経験者にも予備自衛官への扉が開かれた(2001年創設)。
簡単に言えば、公募の予備自衛官制度が始まったのである。
いざというときに、後方地域での警備や支援にあたる「一般枠」と、医療や語学などの専門技術を生かす「技能枠」と2つのコースがある。前者は3年以内に50日間の、後者は2年以内に10日間の訓練を経て、予備自衛官となる。
筆者は02年、予備自衛官補(一般)第1期生として、神奈川県横須賀市の武山駐屯地で訓練を開始した。教育内容は「気をつけ」「回れ右」など基本教練に始まり、小銃の分解・結合、戦闘訓練、催涙ガス体験、射撃、25キロ行進など。
大学以来、体育会系の私としては、肉体的にはさほどきつくはなかったが、部隊章などを縫い付ける「裁縫」や、毎晩ピシッとかけなければならない「アイロン」、集団行動を乱さないための「早飯」は三重苦だった。
教官たちは、初めて扱う「予備自衛官補」なる人種に戸惑いも大いにあっただろうが、総じて指導は親身で熱く、行動のひとつひとつがキビキビとして清々しかった。最初の1週間の訓練を終え、いわゆるシャバに戻ったとき、街を歩く男性が全員“オカマ”に見えたのには、われながら仰天した。
半年後に2週目の訓練に入るころ、印象的なことが起きた。
日本企業に勤める同期が「1週間も会社を休むということは、分かっているんだろうな!」と上司に言われ、退官せざるを得なくなったのだ。対照的に、フランス系企業に転職した同期は「名誉ある任務だから胸を張っていってこい」と快く送り出してくれたという。
日本社会の国防意識の低さを、まざまざと見せ付けられた気がした。
実際、私は50日間の訓練を終え、自分が日本国の一員だと実感できる教育を初めて受けたと感じた。それまで、「良き家庭人、良き市民であれ」という教育はあっても、「良き国民たれ」という教育はなかったように思う。また、自分がボーッとしている間も、実は自衛隊によって「守られていた」という事実も認識するようになった。
そして、「誰もが、これくらいの訓練を受けたうえで、成人と認めるシステムにしたらいい」と考えるようになった。
自衛隊に限らなくていい。警察や消防、海上保安庁、もしくは施設でのボランティアでもいい。「公」のために「私」を滅して尽くす一定期間を経て「成人」と認めるようにすれば、日本社会ももう少し成熟したものになるのではないか。
■葛城奈海(かつらぎ・なみ) キャスター・女優。1970年、東京都生まれ。東京大学農学部卒業後、女優としてテレビドラマやラジオ、CMなどで活躍。ライフワークとして自然環境問題に取り組む。武道と農業を通じて国の守りに目覚め、予備自衛官となる。日本文化チャンネル桜『防人の道』レギュラー出演。共著に『国防女子が行く』(ビジネス社)など。