自衛隊特殊部隊臨戦、対テロ極秘任務 北朝鮮拉致被害者「奪還」も
ZAKZAK 夕刊フジ自衛隊は「国民を守る」ために、日々、降下訓練(第1空挺団)や、離島への上陸訓練などを続けている
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による日本人殺害事件を受け、安倍晋三首相が、自衛隊による邦人救出に向けた法整備に意欲を示している。日本人が海外でテロ組織などに拘束された場合、その救出を他国に頼るしかない“情けない現状”が浮き彫りになったからだ。実現へのハードルは高いが、仮に自衛隊の救出命令が出されれば、特殊部隊が出動する。その作戦遂行能力はどのくらいあるのか。専門家が分析した。
「海外で邦人が危険な状況に陥ったときに、救出も可能にするという議論を、これから行っていきたい」
安倍首相は2日の参院予算委員会でこう強調した。人質事件が、日本人2人の殺害映像が公開されるという凄惨(せいさん)な結末を迎え、海外での自衛隊による邦人救出は通常国会の主要な論点に浮上している。
国家にとって「自国民の保護」は重要な使命である。米国では、陸軍特殊部隊(通称グリーンベレー)や、陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊(同デルタフォース)、海軍特殊部隊(同シールズ)。英国では、陸軍特殊空挺部隊(同SAS)などが、海外での救出任務に当たっている。
自衛隊が邦人救出に乗り出す場合、専門家の間で投入の可能性が高いと予測されているのが、陸上自衛隊習志野駐屯地(千葉県)に置かれている特殊部隊「特殊作戦群(特戦群)」だ。
ゲリラや特殊部隊による攻撃への対処が主任務だが、訓練の内容などは明らかにされておらず、隊員は家族にさえ特戦群に所属していることを告げてはならないという。
軍事ジャーナリストの井上和彦氏は「海外での人質救出に出向くのは、特戦群以外にない。十分な作戦遂行能力を持っている。あとは政治判断だ」と指摘し、続けた。
「対ゲリラ戦闘は、正規の戦闘とは大きく異なる。相手は組織の体をなした『軍隊』ではないので、どんな配置で戦いを挑んでくるかも予想しにくい。こうした状況に対応するには、高度なメンタル面の鍛錬も必要になるが、特戦群ではそうした訓練も行われている」
特戦群では、北朝鮮による日本人拉致被害者の奪還を念頭に、離島に上陸して一般人にまぎれて目的地へと潜入する訓練なども行われているとされる。「砂漠、ジャングルなど、日本国内にない環境での訓練の充実と、語学に習熟した隊員の確保が必要」(井上氏)という課題はあるが、救出ミッションに挑む最有力候補といえそうだ。
同じ習志野駐屯地の精鋭部隊「第1空挺団」も実力は高い。
元韓国国防省北韓分析官で拓殖大客員研究員の高永●(=吉を2つヨコに並べる)(コウ・ヨンチョル)氏は「秘密裏の人質救出作戦にも対応できるよう、非常に厳しい訓練を積んでいる。相当の能力がある」とみる。
このほか、米海軍シールズを参考に、海上自衛隊江田島基地(広島県)に創設された特殊部隊「特別警備隊(特警隊)」も高度な訓練を積んでおり、「救出作戦に適任」との指摘もある。
ただ、元陸上自衛官で安全保障研究家の濱口和久氏は「特戦群も第1空挺団も特警隊も、極めて高い能力を持っているが、作戦遂行のためには、まずは『情報』が必要だ」といい、続けた。
「今回の人質事件でも、日本政府はイスラム国について十分に情報を得ることができていなかった。情報もなく、単に『人質を救出せよ』というミッションを与えられても、部隊の能力は発揮できない。現地での人脈に通じた人材の育成などが必要ではないか」
米国のCIA(中央情報局)や、英国のMI6(秘密情報局)のような、対外情報機関の創設が急務というわけだ。
課題は他にもある。
昨年7月の安保法制に関する閣議決定では、邦人救出の条件として「受け入れ国の同意」と「国に準ずる組織がいない」ことを掲げている。安倍首相は参院予算委での答弁で、「(今回の人質事件では)シリアが同意することはあり得ない」「法的要件を整えてもオペレーションができるのかという大問題もある」と指摘している。
特殊部隊の経験者はどう思うのか。
前出の海自・特警隊の創設準備に携わり、即応部隊を率いる小隊長を務めた伊藤祐靖(すけやす)氏に聞いた。伊藤氏は、沖縄・与那国島を舞台に、人質を取った武装集団に元特殊部隊隊員が立ち向かう姿を描いた、麻生幾氏の小説『奪還』(講談社文庫)のモデルにもなった人物である。
伊藤氏は「作戦遂行能力があろうがなかろうが、やるならやる。(最高指揮官である首相が決断し、救出命令が出たら)何をしてでもやる」と語った。
自衛隊は「国民を守る」ために、日々、降下訓練(第1空挺団)や、離島への上陸訓練などを続けている