旧日本軍の「秘密兵器」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

浜名湖に眠る“幻の戦車”を探せ
終戦時に沈められた旧日本軍の「秘密兵器」
最新ハイテク技術で姿を現すか

産経ウェスト



浜名湖に眠っているとされる四式中戦車チト(ファインモールド提供)


 第二次大戦末期に完成したものの、終戦時に機密保持のため静岡県の浜名湖に沈められたとされる旧日本軍の戦車「四式中戦車チト」を“発掘”するプロジェクトが進んでいる。戦車が湖底深くに眠るという証言が伝わる浜松市北区三ヶ日町の住民有志らが挑戦。これまで潜水調査や音波探査を行ったが発見できず、最後の手段として磁気探査に乗り出すことを決め、探査費用をインターネットで募っている。見つかれば貴重な戦争資料となり、最新のハイテク技術を使った“幻の戦車”探査に期待が高まっている。

(岡田敏彦)

旧日本軍最後の新鋭兵器

 「四式中戦車チト」は、全長6・3メートル、全幅約2・9メートル、全高約2・7メートル。日本の戦車はそれまで歩兵の支援を目的としていたが、当時ドイツや米国、ソ連などでは戦車戦を主目的としたより強力な戦車が開発されていた。そうした戦車に対抗するため開発されたのが「四式中戦車チト」で、前面装甲は日本戦車最大の75ミリ、主砲も大口径の75ミリ長砲身砲を備えていた。従来の日本軍戦車が米軍の主力戦車「M4シャーマン」に対し装甲も薄く、砲の威力も劣っていたのに対し、初めて対等に戦える性能を持った戦車とされた。

 本格的な試作車は昭和20(1945)年2月に完成。各種試験を行うとともに量産を試みたが、戦争末期の混乱のなか、エンジンや砲の生産が進まず、完成したのはわずか2輌(一説には6輌)といわれている。

 

地元に伝わる伝説

 この戦車が浜名湖に沈められた-との話は地元では有名だった。商工会関係者ら地元有志でつくる町おこしグループ「スマッペ=ステキみっかび発信プロジェクト」の中村健二事務局長(54)は「私がまだ小学生の頃、父から『浜名湖には戦車が沈められている』という話を聞いた」という。最初は都市伝説のたぐいに考えていたが、「あるとき、戦車に詳しい友人から、沈んでいるのは四式中戦車チトだと聞かされた」。

 調べていくうちに、戦車の謎が少しずつわかってきた。終戦時、最新の秘密兵器を米軍に渡すわけにはいかないとして、他の軍用車両とともに沈められたこと。水没作業に携わった技術兵が、すでに死去したものの戦後も同町に住んでいたことなどだ。

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 さらに地元の古老たちからも「戦車は1台じゃなく、3台沈んでいる」「あの日は雨が降っていた。大きな音がするので家の外に出ると、見たこともない大きな戦車が走っていった」「子供の頃、浜名湖の戦車の砲身にまたがって遊んだことがある」といった証言が次々と飛び出した。

 「地元の歴史を次世代に残すためには、いま調査するしかない」。そう考えた中村さんらグループのメンバーは、平成24(2012)年に魚群探知機などを使って湖底の音響調査を開始。プロのダイバーらもボランティアで潜り湖底を調査したが、見つかったのは捨てられた小舟や浮桟橋の残骸だけだった。

 しかし音響調査では湖底表面の形しかわからないため、中村さんは「戦車は必ずあるはず。湖底の戦車は、69年間分の泥をかぶり、その中に埋まっているとしか考えられない」という。

 

募金募り磁気探査へ

 「重さ30トンの戦車は、埋もれて眠っている」。そう考えたメンバーらが選んだ方法が「磁気探査」だった。これなら泥に埋まっていても発見できる可能性が高い。しかし専門家に依頼すると、費用は360万円。「これまでの探査でかなりのお金を使っていて、もうわれわれだけでは無理だった」

 そこで、インターネットで寄付を募る「クラウドファンディング」に望みをかけた。寄付が目標額の360万円に達した場合だけ決済されるシステムで、締め切りの11月29日までに目標額に達しなければ計画は実現しない。中村さんらは戦時中の歴史や戦車に興味を持つ人たちの熱意に期待し、「世界でただ1台残る四式中戦車チトを、ぜひともこの目で見たい」と話す。

 

欧州で盛んな戦車発掘

 こうした“戦車の発掘”は、実は欧州ではよく行われている。戦時中に撮影された記録写真に着目し、「いつ、どこで撮影されたか」を調べたうえで、戦跡をめぐってその記録写真と同じアングルで現在の様子を撮影。2枚を並べて見せるという方法が、戦史研究家の間ではなじみとなっている。こうした調査研究がより進んだのが旧ソ連崩壊後だ。第二次大戦時にドイツ軍とソ連軍が戦った戦跡は戦後「鉄のカーテン」の向こう側にあったが、旧ソ連の崩壊でこうした戦跡の調査が進んだ。

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 戦争を知るお年寄りたちの「あの沼に戦車が沈んでいる」「軟弱地で撃破された戦車が、数年で土中に埋まった」などの証言や、生き残った元兵士たちの「戦車で橋を渡ろうとしたら、戦車の重さに絶えきれず橋が壊れ、戦車もろとも水中へ…」といった話を参考に、有志やマニアが戦跡から戦車を掘り出したり、水中から引き揚げたりすることに成功。英国戦車「バレンタイン」やソ連戦車「Su-100」、ドイツ戦車「ヘッツァー」などが欧州各地で発掘されてきた。

 2008年には、現存車が世界に1輌もなかったドイツの四号突撃砲(しかも最後期型)をポーランドの川の中から引き揚げる“快挙”が世界中の戦史研究家や戦車ファンを驚かせた。

 浜名湖で幻の4式中戦車チトが磁気探査で見つかれば、中村さんらは取りあえず水中で積もった泥を払い、ダイバーによる目視で実在を確認したいという。引き揚げには莫大(ばくだい)な資金が必要だが、本当に見つかれば次の展開も見えてくる可能性があり、戦車を観光の目玉にした「町おこし」も夢ではない。

 クラウドファンディングの申し込みHPのアドレスは、https://readyfor.jp/projects/SENSHA