問題は委員の人選 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

慰安婦報道への反省見えぬ朝日

産経ニュース


□麗澤大学教授・八木秀次

 朝日新聞の木村伊量(ただかず)社長が11日夜に記者会見し、東京電力福島第1原発所長として事故対応に当たった吉田昌郎所長の「聴取結果書」(吉田調書)に関する記事を撤回し、併せて慰安婦報道に関する誤報について謝罪した。

 翌12日付同紙朝刊は「吉田調書『命令違反し撤退』報道 本社、記事取り消し謝罪 慰安婦巡る記事撤回遅れを謝罪」との見出しを掲げ、頭を下げる木村社長の写真とともに、「みなさまに深くおわびします」と題した社長名の文章を掲載している。

 ≪調書報道よりはるかに重大≫

 このタイミングでの記事撤回、謝罪に至った理由は言うまでもない。11日夕、政府は吉田調書を公開した。公開されれば、朝日の誤報が満天下に明らかになる。追い込まれての撤回、謝罪というわけだ。

 知り合いの朝日の記者も、慰安婦問題よりも恐れているのは吉田調書が公開されることだと語っていた。慰安婦の誤報は過去の先輩たちの不始末だが、吉田調書は現在の体制下の誤報だからだということだ。

 だが、朝日社内の認識はそうかもしれないが、慰安婦問題は過去のものではない。現在進行形でわが国の国益を損ね、国際社会で日本人のイメージを傷つけ続けている。韓国との関係を悪化させた最大のテーマでもある。しかし、朝日社内にはそのような認識はないようだ。

木村社長の謝罪会見にしても、慰安婦問題での謝罪は吉田調書報道問題での謝罪と抱き合わせで、付け足しのようにも思える。前述の12日付朝刊も吉田調書関連ニュースの1つとして、「慰安婦特集・コラム問題の経緯」を位置づけている。

 そのうえ、これまでの慰安婦報道を検証した8月5、6日付紙面の特集について、木村社長は「内容は自信を持っている」と記者会見で語っている。

 12日付朝刊でも、「朝日新聞が吉田氏の証言を報じた記事を取り消したことを受け、慰安婦問題で謝罪と反省を表明した河野洋平官房長官談話(河野談話)の根拠が揺らぐかのような指摘も出た。このため、同(8月)28日の朝刊で改めてポイントを整理し、『慰安婦問題、核心は変わらず 河野談話、吉田証言に依拠せず』との見出しの記事で、河野談話への影響はないと結論づけた」と書いている。

 朝日が16回も記事で取り上げた、日本統治下の朝鮮半島で少女を奴隷狩りのように連行して日本軍の慰安婦にしたとする吉田清治証言は河野談話作成過程では影響を与えなかったが、談話を出さざるを得ない状況に日韓両国政府を追い込んだのは、他ならぬ朝日の吉田証言報道であった。

 ≪被害者でなく加害者認識を≫

 時の河野洋平官房長官自身が談話発表時の記者会見で日本軍や官憲による強制連行を認めるような発言をしたのは、朝日の報道の影響でもある。まるで人ごとのような語り口に謝罪が心からでなく、追い込まれてのものであることが透けてみえる。

13日付朝刊では1面コラム「天声人語」と社説でもおわびを繰り返している。社説は「朝日新聞は、戦後に例がない大きな試練を自ら招いてしまいました」と書き出している。しかし、「私たち論説委員は」を繰り返し、やはり人ごとだ。社説は社論を述べる場ではないのか。

 この新聞が度し難いのは社説と同じ紙面の読者投書欄「声」に読者5人の意見を掲載しているが、朝日に厳しい意見とともに「この時とばかりに朝日バッシングを繰り返した政治家、評論家、メディアはあまりに情緒的だった。恣意(しい)的な報道も多く、客観性や冷静な視点に欠けている。保守系メディアは、慰安婦だけでなく南京事件、東京裁判までも否定しようとする論調に拍車をかけた」という意見も載せていることだ。

 朝日が慰安婦報道の非を素直に認めることができないのは自らを被害者と見なしているからだ。8月5日付で杉浦信之編集担当(当時)は、「一部の論壇やネット上には、『慰安婦問題は朝日新聞の捏造(ねつぞう)だ』といういわれなき批判が起きています」と書き、9月6日付で市川速水東京本社報道局長も「8月5、6日付朝刊で慰安婦問題特集を掲載して以来、(中略)関係者への人権侵害や脅迫的な行為、営業妨害的な行為などが続いていました」と述べている。

≪第三者委は厳しく検証せよ≫

 しかし、朝日は被害者ではない。32年後に取り消さざるを得ない虚偽報道によってわが国の先人を貶(おとし)め、蛮行を行った卑劣な性犯罪国家というレッテルを国際社会で貼られてしまう災いを日本にもたらした。明らかに加害者の立場である。批判されて被害者面するのは虫がよすぎる。

 慰安婦報道は今後、第三者委員会で検証するという。問題は委員の人選だが、お手盛りでは困る。委員には、朝日の報道がいかに国益を損ねてきたかという視点で厳しい検証を期待したい。
(やぎ ひでつぐ)