「集団的自衛権=悪」の“宣伝戦” | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【集団的自衛権 第5部 5つの歪曲(1)】
あり得ない徴兵制 高度化した兵器、短期間では習熟不可能



社民党が集団的自衛権の行使容認に反対するため作製したポスター


「あの日から、パパは帰ってこなかった」

 集団的自衛権の行使容認に反対を訴える社民党のポスター。路上にしゃがみ込んでうつむく男児の写真に、メッセージが添えられている。集団的自衛権の行使容認により自衛隊の任務が拡大することをことさら誇張し、自衛官の“死”を連想させる典型的なプロパガンダ(宣伝)だ。

 陸上自衛隊OBは「こういうときだけ自衛官の心配をしたふりをするのか。殉職自衛官の遺族がどう思うか」と憤慨する。

「抑止力」の強化

 安倍晋三政権が7月1日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈見直しの狙いは、一方的に軍事的緊張を高める中国や北朝鮮の動向をにらみ、軍事衝突に巻き込まれないための「抑止力」の強化だ。

 同盟国の米国をはじめオーストラリアやインド、フィリピンなど安全保障上の利害を共有する友好国と軍事的関係を強化し、アジア太平洋地域の平和と安定を高めることを目指している。

それにもかかわらず、社民党を含め行使容認に反対する野党に一部マスコミが加担する形で、レッテル貼りが横行している。事実の「歪曲(わいきょく)」にすぎない。

解釈変更余地ない

 「将来、徴兵制が意に反する苦役に当たらないと(憲法の)解釈変更があれば、徴兵制が可能になる危惧があるのではないか」

 社民党の吉田忠智党首は7月15日の参院予算委員会で追及した。「徴兵制」について政府は、奴隷的拘束や苦役からの自由を定める憲法18条に反するとの見解だ。横畠裕介内閣法制局長官は答弁で「平時、有事を問わず、憲法の趣旨から許容されない。解釈変更の余地はない」と断言した。

 なぜ、集団的自衛権の行使容認の議論に「徴兵制」が持ち出されるのか。

 「集団的自衛権の議論をやりだすと徴兵制まで行き着きかねない。なぜなら戦闘すると承知して自衛隊に入っている人ばかりではないからだ」

 5月18日付「しんぶん赤旗」日曜版のインタビューでそう語ったのは、かつて自衛隊の最高指揮官である「首相」の座に最も近い男といわれ、中曽根康弘政権で防衛庁長官を務めた加藤紘一元自民党幹事長だ。

「戦闘すると承知していない」自衛官が大量退職し、政府は人員を確保するために徴兵制に踏み切らざるを得ない-という論法のようだ。

 航空自衛官OBは「私たちは服務の宣誓をして自衛官になった」と反論する。自衛隊法施行規則39条は自衛隊員になった時点で「…事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」と宣誓することを定めている。国政から身を退いたとはいえ、加藤氏の発言が自衛官の心にどう響くのだろうか。

 安倍首相は徴兵制を導入しない理由の一つに「政策選択肢としてあり得ない」ことも挙げる。軍事的合理性を考慮すれば、徴兵制はそぐわないからだ。先進国などで徴兵制を廃止・停止するのは国際的な潮流となっている。

 陸自OBは「自衛隊に徴兵制はマッチングしない。プロ集団じゃないと(現代戦に必要な)兵器を使えないからだ」と説明する。自衛隊を含め先進国の軍隊は兵器や通信機器が高度化され、徴兵制を導入したとしても短期間で習熟するのは不可能なのだ。

実際に集団的自衛権の行使容認によって自衛官が不足するのか。

 防衛大学校(神奈川県横須賀市)で7月26、27両日、毎年夏恒例の受験予定者らを対象にした「オープンキャンパス」が開かれた。

 2日間の来場者は保護者を含め2729人。身を賭した懸命な救助・捜索活動が評価された東日本大震災があった平成23年が1694人、24年が2500人、昨年は3297人だった。昨年が多いのは「TBSドラマ『空飛ぶ広報室』の影響が大きかったようだ」(防大関係者)。女子高生が戦車を使った武道「戦車道」を学ぶストーリーのアニメ「ガールズ&パンツァー」(通称ガルパン)が24年10月から東京MXテレビなどで放映されたことも自衛隊人気を押し上げた。

仕掛ける“宣伝戦”

 集団的自衛権の議論が本格的に始まった昨年を含めても、幹部自衛官を目指す若者は減らないどころか増え続けている。7月1日の閣議決定後に陸海空自衛隊から退職希望者が殺到しているような事実もない。

行使容認に反対する勢力はそうした事実から目を背け、耳目を集めやすく、刷り込みやすいプロパガンダで「集団的自衛権=悪」のイメージを植え付けようと“宣伝戦”を仕掛けている。

 集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈見直しが閣議決定されてから1カ月。「徴兵制につながる」「軍事大国化する」といった反対勢力によるレッテル貼りが続けられている。現実に反する「歪曲」を検証する。