リムパックで特等席を与えられた「いせ」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 
自衛隊と共に中国海軍を威圧したい米海軍
JBpress.ismedia


 2年ごとにアメリカ海軍が主催して実施される多国籍軍による海洋軍事訓練「リムパック(環太平洋合同演習)2014」が6月26日から開始された。

 今年は22カ国から海軍艦艇、航空機、水陸両用戦部隊などが参加して、ハワイのパールハーバー米海軍基地を本拠地として、ハワイ諸島や南カリフォルニアなどで、様々な海洋軍事合同訓練が実施される。

中国海軍とアメリカ海軍の思惑

 リムパックは1971年にアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの海軍による合同訓練として開始された。1980年からは海上自衛隊も加わり、それ以降は2年ごとに開催され、徐々に参加国を増やして今日に至っている。

リムパックの参加国
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 総合的な海洋軍事訓練であるため、艦艇や航空機による海軍合同訓練とともにアメリカ海兵隊が参加する水陸両用戦訓練も実施されている。最近はアメリカ海兵隊だけでなく各国陸戦部隊も参加して、より総合的な海洋合同訓練へと変貌した。

 本年度のリムパック2014には中国海軍が初参加しており、アメリカのメディアなども中国艦隊の動向に大きな関心を寄せている。中国海軍は、中国版イージス艦と呼ばれている駆逐艦「海口」、新鋭のフリゲート「岳陽」、大型補給艦「千鳥湖」それに病院船「和平方舟」の4隻をハワイに派遣した。中国艦隊はグアム沖でアメリカ海軍のイージス巡洋艦ならびにイージス駆逐艦と合流し、やはりリムパックに参加するブルネイ海軍の2隻の哨戒艦ならびにシンガポール海軍フリゲートと艦隊を組んでパールハーバーに入港した。

パールハーバーを目指す中国・ブルネイ・シンガポール・アメリカ合同艦隊

2012年にアメリカ政府が中国海軍をリムパックに招待した際、様々な憶測と議論が巻き起こった。それ以降、南シナ海や東シナ海における中国海軍による周辺諸国に対する威圧的行動が激しくなっているために、現在も中国海軍のリムパックへの参加の意図や、アメリカ側の真意などに関して議論がなされている。

 中国側としては、さすがに空母は派遣できないものの、イージス駆逐艦と新鋭フリゲートにより海上戦闘能力の高さを示し、大型補給艦により遠洋作戦能力を示し、病院船により平和貢献活動への意欲を示す、といったようにアメリカの同盟国・友好諸国に対するアピールが主たる目的であることは明らかである。同時に、中国海軍はアメリカ海軍の本拠地に乗り込んでアメリカ海軍や海上自衛隊と合同訓練するまでに地位が向上したとの宣伝を国内外に発信する意図を有していると思われる。

 一方アメリカでは、いわゆる中国封じ込め政策に賛同しない陣営にとっては、中国を取り込む関与政策の一環として捉えられている。もっとも封じ込め派においても、中国に対して「アメリカの真意は中国封じ込めではない」という具体的ポーズを取ることによって、中国側からの「封じ込め」に対する批判を避けることができると考える人々もいる。

 より実務的には、将来、公海上で艦艇や航空機が遭遇した際に起こりうる誤解による不必要な軍事衝突を避けるために、中国海軍とアメリカをはじめとする多国籍海軍が合同で訓練を実施することで相互理解を少しでも進展させることが、中国のリムパック参加が持つ重要な意義であるとされている。

 ただし、「相互理解」と言ってもあくまでも海事技術上の相互理解であり、軍事的あるいは政治的な妥協を目指しての相互理解など、リムパック2014に参加した程度で促進されるわけがない、と多くの軍関係者たちは考えている。したがって、中国海軍のリムパックへの参加を米中接近と考えるのは、少なくとも第一線の軍レベルにおいては、全く的外れな考えと言える。

 これらに加えて、最近南シナ海や東シナ海でフィリピンやベトナムなどだけでなく自衛隊や米海軍に対してまで挑発的かつ危険な行動をするようになってきている中国海軍に対して、リムパックを通してアメリカ海軍の実力を見せつけようという意図があることも否定できない。そのため、アメリカ海軍は空母「ロナルド・レーガン」はじめ24隻の軍艦(沿岸警備隊カッターを含む)と多種多様な航空機を200機ほど訓練に投入して、アメリカ海軍力の強大さを見せつけることになっている。

米側による集団的自衛権への配慮

 海上自衛隊はリムパックでは古株の1つであるが、今年からは陸上自衛隊部隊も本格的に水陸両用戦訓練に参加することとなった。本年の水陸両用戦訓練は、敵の攻撃拠点を上陸部隊が側面から攻撃する「襲撃」訓練や、敵が陣取る海岸線へ正面から上陸する「強襲」訓練、それに敵地に取り残された自国・友好国市民を海から接近し海と空を経由して救出する非戦闘員救出作戦を想定した総合的訓練などが実施される。

 1980年に海上自衛隊がリムパックに参加し始めた頃は、多国籍海軍の合同訓練への参加が集団的自衛権の行使に抵触するのではないか? との議論が国会でなされていた。そして、水陸両用戦訓練への自衛隊の参加を懸念する声も上がっていたようである(例えば「第101回国会質問22号」を参照)。

 しかしながら、本年の海上自衛隊と陸上自衛隊のリムパック2014参加に関しては、水陸両用戦の訓練へも本格的に参加するにもかかわらず、集団的自衛権行使反対陣営からはさしたる反対の声が上がっている様子はない。集団的自衛権行使反対陣営による「反対」がいかに薄っぺらなものであるのかがよく分かる。

 もっとも、リムパック2014での水陸両用戦合同訓練を主催するアメリカ海兵隊は、日本における集団的自衛権行使や集団安全保障に関する国際的に見て理解し難いほど非常識な慣行を十分に承知しているために、細心の注意を払っている。

 例えば、アメリカ、カナダ、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、マレーシア、インドネシア、メキシコ、トンガ、オランダの海兵隊や陸軍部隊ならびに陸上自衛隊部隊が参加して実施される水陸両用戦合同訓練に関する指揮統制系統図や部隊編成表などでは、陸上自衛隊部隊は司令部(アメリカ海兵隊)直属の別動部隊として扱われており、それも“実線”ではなく“点線”で結ばれている。これにより、陸上自衛隊部隊は、集団的自衛権を行使してはいないし、集団安全保障へも参加していないことになるわけである。もっともこのような苦労は今年で終わりということになるであろう。

注目を浴びる「いせ」の威容

 さて、陸上自衛隊部隊の本格的参加は、自衛隊ほどの規模を持った軍隊が水陸両用戦訓練に参加するのはどのリムパック参加国にとっても当然のことであるため、さして関心が持たれているわけではない。

それよりも話題になっているのは、海上自衛隊のヘリコプター空母「いせ」である。しばしば、日本の事情を知らない軍人などは、なぜヘリコプター空母が“駆逐艦”と呼ばれているのか疑問を呈するのだが、今回「いせ」が注目されているのはそのためではなく、その係留している位置のためである。

 補給艦や病院船を除くリムパック2014に参加している水上戦闘艦の中で、数少ない全通飛行甲板を持つ“空母型”軍艦である海上自衛隊「いせ」(排水量19000トン、全長197メートル)は、アメリカ海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」(排水量101429トン、全長332.8メートル)と強襲揚陸艦「ペリリュー」(排水量39438トン、全長250メートル)に次ぐ巨艦である。日本の軍艦旗を掲げる堂々とした「いせ」は、リムパック2014に参加する各国艦艇が停泊するパールハーバー米海軍基地の入り口に係留しているのである。

パールハーバーの入り口に係留された「いせ」

 したがって、全てのリムパック参加艦艇は、基地への出入りに際しては「いせ」を目の当たりにすることになり、海上自衛隊の巨艦に感心せざるを得ない、というのがリムパック2014開会劈頭の状況である。軍人だけでなく、観光スポットである戦艦ミズーリを訪れる観光客の目にも、真正面に停泊している日本の“空母”の姿が目についてちょっとした話題となっているようである。

 もちろん「いせ」が目立とうとして最高のシートを確保したわけではなく、各国軍艦の係留位置はアメリカ海軍によって指定されたのである。これは、同盟軍である海上自衛隊とともに中国海軍を威圧しようというアメリカ海軍の粋な計らいと考えることもできる。