タブーを打ち破る、「ダイヤモンド」「ODA」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【集団的自衛権 第4部 閣議決定(下)】
適用 ASEANも視野 対中抑止力へネットワーク化




 尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺で中国の挑発が小康状態を保っている。南シナ海パラセル(中国名・西沙)諸島海域で中国が一方的に石油を掘削したことをきっかけに、中国とベトナムの艦船の衝突が激しくなった5月以降のことだ。

 実は、「これまで尖閣に展開してきていた中国海警局の船がパラセルに多数投入されている」(政府高官)という。海警局の船の艦番号は4桁で、最初の数字が管轄海域を表す。尖閣など東シナ海担当は「2」で始まる船で、それらがパラセル周辺を航行するのが確認されているのだ。

 艦船同士が衝突を繰り返す中越両国は、純然たる平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」に突入したといえる。グレーゾーン事態は、いつ有事へとエスカレートするか分からない危険性もはらむ。日本にとっても対岸の火事ではない。

 集団的自衛権の行使容認に道を開いたことに首相周辺は「ASEAN(東南アジア諸国連合)を巻き込んで地域全体の抑止力を高めることができ、中国への強い牽制(けんせい)になる」と語る。閣議決定文で集団的自衛権の適用対象として明記した「わが国と密接な関係にある他国」は、ASEAN各国も視野に入れている。

安保の「ひし形」

 安倍晋三首相は平成24年12月の就任直後に発表した論文で、日本と米太平洋軍の拠点ハワイ、オーストラリア、インドをひし形に結ぶ「安全保障のダイヤモンド構想」を提唱した。海洋安全保障の強化を目指す同構想に実効性を持たせるには、自衛隊の集団的自衛権行使が前提となる。

 ひし形の中に位置するASEAN各国との協力強化は、同盟・友好国のネットワークの網をより細かなものとし、しかもそれを中国の面前で見せつけられる利点がある。防衛省幹部は「いざというときには助けることを担保する集団的自衛権の行使容認は、ASEAN各国を引き寄せる大きな手札だ」と指摘する。

ODAも「手札」

 集団的自衛権と同様にタブーを打ち破ることで得られる手札はほかにもある。政府開発援助(ODA)もその一つだ。

 政府は年末までの閣議決定を目指す新たなODA大綱で、各国軍人の研修に踏み込む見通しだ。外務省の有識者懇談会は先月末、軍の災害救援などについて「軍が関係しているからといって一律に排除すべきでない」と提起し、これまで禁じてきた他国軍への支援を一部容認する報告書をまとめている。

 報告書は「(他国の)海上保安能力の強化」も掲げており、具体策としてベトナムやフィリピンに対する軍民共用の港湾や空港の整備、巡視船の提供、軍関係者の研修を想定している。日米両国が同盟深化に向け長年融通し合ってきた手法を援用するわけだ。

 政府が4月に閣議決定した武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」も手札になる。高性能の日本の防衛装備品にASEAN各国の需要は高く、条件を満たせば国産装備品の輸出ができる。

 自衛隊が他国軍の人材を育成する「キャパシティ・ビルディング(能力構築)支援」は、三原則と車の両輪を成す。人道支援や災害救援を通じ支援対象国との関係を深め、地域の安全保障環境の安定化を主導する狙いがある。対象国はベトナムやインドネシアなどASEAN各国が先行しているのも特徴だ。

 森本敏前防衛相は年末に予定する日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定を念頭に「ガイドラインにオーストラリアなどをどう取り込み、ASEANの能力向上に日米でどう取り組むか。その役割分担を決めることも大きな目標だ」と指摘している。(半沢尚久、沢田大典)