ROE | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【集団的自衛権 第4部 閣議決定(中)】
民主党時代からの宿題・部行動基準見直し 法整備なければ運用に支障



「北朝鮮のミサイルに備える米イージス艦を防護するための部隊行動基準(ROE)を策定すべきだ」

 「邦人輸送中の米艦艇を守るためF15戦闘機の武器使用を認める必要がある」

 民主党政権末期の一昨年暮れ、航空自衛隊の作戦中枢「航空総隊司令部」はROEの見直しを極秘裏に検討し、それらが論点に挙がった。安全保障法制に関する与党協議で提示された事例と重なっており、事例が急ごしらえのものではないことを証明している。

安保環境変容に直面

 ROEは自衛隊の武器使用のあり方などのルールを具体的に定めた基準だ。

 当時、何が起きていたか。北朝鮮は長距離弾道ミサイルの発射に成功し、米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の保有が現実味を帯びていた。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺では中国政府の航空機が初めて日本領空を侵犯した。

 集団的自衛権に関する閣議決定文に明記された安保環境の「根本的な変容」を突きつけられた時期にあたる。「ROEは明日にも起きかねない事態に対応できるものでないと役に立たないため焦っていた」。空自幹部は振り返る。

 だが検討作業は頓挫した。ROE見直しには集団的自衛権の行使容認と、平時でも有事でもないグレーゾーン事態に対処する法整備が避けて通れず、民主党政権に成し遂げる余力はなかったからだ。

1年半を経て安倍晋三政権はようやく風穴を開けたものの道半ばだ。小野寺五典(いつのり)防衛相は「法整備で自衛隊の新たな役割が担保された上でROEに反映させる」と述べ、法整備とROE見直しを進める考えを表明したが、不安も残る。

武器使えぬケースも

 その最たるものが自衛隊法95条の「武器等防護」の援用だ。閣議決定文は、武力攻撃に至らないグレーゾーン事態で米艦艇が攻撃された場合、武器等防護による武器使用を参考にする方針を打ち出した。

 武器等防護は「特定の物件」を警護するよう「特定の自衛官」に任務を命じるものだ。逆にいえば、近くにいても警護を命じられていない自衛官は武器を使えず、警護を命じられた自衛官でも指定された対象以外には武器を使えない。

 これが現場でどんな支障を生じさせるか。尖閣への不法上陸を警戒している米艦艇を警護するよう命じられた海上自衛隊艦艇は、海上保安庁の巡視船が近くで攻撃を受けていても武器等防護の任務としては反撃できないのだ。

 武器等防護の援用を掲げたのは、集団的自衛権の行使容認を阻むため個別的自衛権や武器等防護で対処できると訴えた公明党の主張に引きずられた弊害だといえる。これでは、あらゆる事態に間断なく対応するための安保法制の見直しという根幹が揺らぎかねない。

自衛隊OBは「実際の部隊運用を第一に考えた法整備と抜本的な運用改善が不可欠だ」と指摘する。法整備では武力攻撃に至らない事態でも「集団的」を含め自衛権を行使できる規定を設けることが求められる。

 運用改善では、「敵の攻撃の態様に沿い、反撃のための武器使用の程度を段階的に定めたROEを策定しておき、首相は事態に応じてどのROEを適用すべきか命令する仕組みに転換すべきだ」(防衛省幹部)という。この仕組みは国連平和維持活動(PKO)などの国際平和協力活動に援用でき、計画策定や平素の訓練をより現実に即したものにできるメリットもある。

 「切れ目のない安保法制を整備する」(首相)ことなくしてROEの実効的な見直しは進まず、年末までに再改定する「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)も空証文となる。(半沢尚久)