産経ウェスト
中国レアアース「尖閣威圧禁輸」制度解除見通し
脱中国で封じ込んだ日本の粘り中国は密輸横行、競争力低下の失政
中国の内モンゴル自治区包頭市に近いレアアース鉱床の町バヤンオボ。「ようこそ、レアアースの郷へ」と書かれた記念物があった(矢板明夫撮影)
中国が、ハイブリッド(HV)車の部品などに使われるレアアース(希土類)の輸出制限を撤廃するとの見通しが強まっている。ロイター通信が中国関係者の話として伝えた。レアアースは平成22(2010)年9月の尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖の中国漁船衝突事件後に「対日禁輸措置」という外交カードにも使われた資源だが、その横暴ぶりに日米欧から猛烈な批判を浴びた経緯がある。日本は事件をきっかけに、中国以外の調達先を開拓、脱レアアースの独自技術を磨き、中国の脅しに対抗してきた。一時的に吊り上げられたレアアースの価格も、いまは安値に喘ぎ、中国の失政が浮き彫りになっている。
“白菜”並み安値、戦略は的外れ…それでも増産
ロイター通信によると、中国はレアアースを対象とした輸出関税の撤廃と輸出割当制度を廃止する準備を進めている。来年までにはタングステン、モリブデンなどの鉱物資源の輸出規制の解除も検討しているという。中国国土資源省は今年のレアアース(希土類)生産を前年比で約12%増やす方針だ。
世界のレアアースの埋蔵量の3割、生産量の9割を占める中国。「中東に石油あり。中国に希土あり」。中国の最高指導者だったトウ(=登に、おおざと)小平にかつてこう言わしめたことで知られた戦略物資だ。
HV車や携帯に不可欠…盗掘まで横行したが、各国の脱・中国を進ませただけ
中国は、衝突事件後、たちまち日本へのレアアースの禁輸措置を断行。中国側は、環境保護を理由にしたが、日本企業が得意とするHV車のエンジン部品や携帯電話などの材料に欠かせない資源だけに、日本への打撃を目論んだ威圧にほかならなかった。
レアアースの取引価格は一時急騰したことで、中国の影響力を誇示する結果となったが、振り返れば、中国が受けたその代償は極めて大きかった。
「白菜と同じ」(第一財経日報)-。この春には、こう例えられたほどの安値に張り付いたレアアースの価格。それが一段と下落するとの見方が浮上している。
盗掘が横行するモラル崩壊
中国はそもそも、レアアースで大きな儲けをあげられる産業構造になっていない。
第一財経日報は、10元(164円)~20元で輸出されるレアアースが、欧米で加工され1000元で買い取らされていると指摘。製品化技術の乏しさを問題視した。
輸出規制で、レアアースの密輸出も横行。収入が減ったことで、密輸業者に化けてしまったレアアース企業の従業員もいた。密輸業者がレアアースを含んだ「土」を運び出し、安値でたたき売る“盗掘”が相次ぎ、中国が取り締まりを強化する事態に陥っている。
そこにきて、中国が不当にレアアースの輸出を制限しているとし、日米欧が世界貿易機関(WTO)に提訴した問題で、紛争処理委員会が3月に日米欧の訴えを認めたことで、中国の劣勢が決定的となった。
真のクールジャパン戦略…南鳥島沖で発見、インド・カザフで調達…ただし
「(WTO敗訴で)中国がレアアース政策を修正すれば、中国には価格面で競争する道しか残されていない」
ロイター通信は市場関係者の見方をこう伝えた。中国以外で新しい鉱床も発見され、むしろ供給過剰の懸念さえ出ているという。
米国もレアアース「脅威なし」
「防衛産業においてほとんどのレアアースを十分に確保できる可能性が高い」
ロイター通信によると、米国防省は昨年末に議会に提出した年次報告でこう指摘。ほかの資源利用が進んで、レアアースの需要が低下。価格がピークの6割下落したことで、供給不足問題が大きく後退しているのだ。
一方、衝突事件後、これまで日本は中国以外でのレアアースの調達先を拡大。企業はチャイナリスクの対応を静かに進めてきた。
オーストラリアの資源会社と双日などがレアアースの長期供給契約を締結したほか、カザフスタンには住友商事などによるレアアース精製工場が完成。インド政府は、対日レアアース輸出を正式承認している。日本の排他的経済水域(EEZ)内の南鳥島沖などでレアアースを含んだ泥が発見され、資源化を計画。日本の自動車メーカーでは、HV車からのリサイクルやレアアースを使わないモーターの開発が進行している。中国の資源調整の脅威が、日本企業を目覚めさせた格好だ。
中国は、脱中国レアアースの動きで価格競争力を失ったばかりか、WTOの敗訴で、輸出規制のカードも切れなくなっている。
ひざまづけ“小日本”よ…なお強気の中国が採る秘策「採掘制限」
だが別の手段でレアアース供給を絞り込んでくる可能性は残っている。
それは「採掘制限」という奇策だ。中国メディアによると、自国での生産調整は、外交問題とは関係なく実施できる。このため間接的に価格にも影響を及ぼすことができるとみているという。軍事だけでなく、経済でも高圧的な姿勢を貫く中国。行き着く先は、世界からの孤立の道か。