「今そこにある危機」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【安倍政権考】
南シナ海の現実、尖閣に中国艦船100隻の悪夢は「今そこにある危機」



南シナ海でベトナム船(右)に放水する中国海警局の船=4日(ロイター)


 「傍若無人とはまさにこのことだ」と多くの人が思っているのではないか。中国による南シナ海での覇権主義的な振る舞いのことだ。中国はパラセル(中国名・西沙)諸島周辺に130隻近い艦船を繰り出し、ベトナムの抗議を無視して石油掘削作業を進めている。(SANKEI EXPRESS)

 わが国固有の領土である東シナ海の尖閣諸島(沖縄県石垣市)でも100隻を超える中国艦船がある日、突如として現れて、あっという間に占領されてしまうという悪夢が起きないとは誰も断言できない。

 今回の事態の根底にあるのは、自らの周辺海域をその支配下に置こうという中国の野望だ。すでに中国はガス田開発を東シナ海で強行し、その上空に防空識別圏を一方的に設定した。さらに尖閣諸島への領海侵犯を繰り返している。

 中国が掘削作業をしているパラセル諸島付近の海域には、ベトナムが艦船を派遣しているが、数で勝る中国が圧倒している。ベトナムは、中国の掘削作業を止めさせる手段がないのが現状だ。

 このことは尖閣諸島の防衛にも大きな不安の影を落としている。中国が無数の艦船で尖閣諸島を取り囲んだ場合、海上保安庁や海上自衛隊の艦船はそれを排除することができず、中国による上陸や施設設置の強行を阻止できない事態に直面する恐れがあるということだ。

管轄権の既成事実化狙う

 尖閣諸島周辺では、すでにわが国の漁船が中国艦船に追いかけられるという問題が起きており、海上保安庁の巡視船が領海内で操業するわが国の漁船に退避を求めることもあった。中国艦船によって拿(だ)捕(ほ)や臨検がされたら、尖閣諸島周辺における中国の管轄権行使が既成事実化されてしまう。

 昨年4月23日には中国の海洋監視船8隻が領海に侵入して日本漁船を追跡する事態も起きている。この時は海上保安庁の巡視船が割って入るような形で、わが国の漁船を逃した。ただ、中国国家海洋局はウェブサイトで、「日本の権利侵害船の追い払いに成功した」との声明を発表しており、国際社会に対して尖閣諸島周辺で管轄権を行使しているとの世論工作を展開している。

 また、昨年11月には尖閣諸島周辺のわが国の排他的経済水域(EEZ)で中国海警局の船の乗組員が付近にいた中国漁船に立ち入りを行い、管轄権行使は認めないと警告した海上保安庁の巡視船に対し、「中国の管轄海域で漁業順法活動をしている」と応答。法の執行を公然とアピールした。

 米国は尖閣諸島に日米安保条約を適用する理由として、わが国の施政権が及んでいることを挙げている。しかし、中国が尖閣諸島での施設設置やわが国の船舶の拿捕・臨検が行われ、わが国の施政権が失われるような事態になれば、米国が日米安保を発動する根拠が大きく揺らぐことになりかねない。

覇権獲得へ第4、5段階

 日中関係筋によると、中国は自らの周辺海域での覇権獲得に向けて、(1)諸島の領有を一方的に宣言(2)領有の根拠となる国内法整備(3)海洋調査の実施(4)艦船による法の執行(5)海空軍の出動と軍事力優勢の確保(6)占領とその既成事実化-といったプロセスを取ってきている。

 中国は、国連が膨大な量の石油資源が埋蔵されている可能性を指摘した直後の1971年に突如として尖閣諸島の領有権を主張。92年にはその根拠となる領海法を制定した。90年代半ばから後半にかけてはわが国の警告を無視して尖閣諸島の領海などで海洋調査を強行している。

 日中関係筋は、中国による防空識別圏設定や自衛隊機に対する戦闘機の異常接近も海空軍による軍事力優勢の確保としてとらえるべきだとしており、プロセスは第4段階から第5段階にさしかかっていると分析している。中国の脅威はすでに眼前に迫っているといっていいだろう。(笠原健)