田母神戦争大学 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【書評】渡部昇一が読む
『田母神戦争大学 心配しなくても中国と戦争にはなりません』
(田母神俊雄、石井義哲著)





■指導者に必要な軍事的知識 

 おびただしい情報がマスコミを通じて送られてくる。言論統制のない日本の豊かさの一面を示すものであろう。

 しかし溢(あふ)れるばかりの情報の中で、唯一、決定的に欠けているものがある。それは本物の軍事情報であり軍事的知識である。

 このたび出された田母神・石井両氏の対話本は、極めて読み易(やす)いスタイルでありながら、ほかでは知ることのできない貴重な情報が含まれている。

 たとえば最近の中国の海洋進出はわれわれの関心をあつめ、時として中国への恐怖感を起こさせる。私の世代だとシナ兵(当時の言い方です)の弱いことはよく知らされていたから、急に中国が軍事大国ぶりを世界に見せているのを見ると一寸(ちょっと)奇異な感じがしていた。しかし原爆を持ち、月に宇宙船を送る現実を見ると、やはり一種の恐怖感さえ感ずることがある。

 ところで本当に軍事的に中国と向き合っている自衛隊から見るとどうか。結論は即物的というほど簡単である。今の中国の海軍や空軍は日本の自衛隊から見ると少しも恐ろしいものではない。いわんやアメリカ軍から見た場合においてをや。

 中国や北朝鮮の危険をアメリカ国防総省筋が言うのは予算獲得のためということが一番主眼という。

また日本人に重要なことは、日本では武器・武装関係でアメリカから独立していないことである。これはイギリスなどを手本にして考えてゆくべきことである。

 いずれにせよ今の中国には戦争の準備がないという指摘はわれわれに当分の間は安心感を与えてくれるであろう。しかし中国は軍事大国、海洋大国を目指していることは確かなのだ。われわれの覚悟も必要である。

 このような軍事的知識や軍事史的知識が、日本の大学の講座でも語られるべきだと思う。軍事的知識から逃げている知識人などは欧米では稀(まれ)である。将来リーダーになるべき人の第一条件は軍事的知識なのだから。貴重な知識を与えてくれる本だ。(田母神俊雄、石井義哲著/産経新聞出版・本体1200円+税)

 評・渡部昇一(上智大名誉教授)