東シナ海に「蓋」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 



効果は絶大、
与那国島に配備される海洋防衛部隊

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東シナ海に「蓋」をして人民解放軍海軍を牽制


安倍晋三首相とオバマ大統領による首脳会談後も、中国公船による尖閣諸島周辺日本領海への接近や侵入が繰り返されている。このような東シナ海と南シナ海における中国の露骨な拡張主義的海洋戦略に対抗するために、日本国防当局は東シナ海地域での警戒監視態勢を強化する具体的な動きに入った。

 アメリカ海軍や海兵隊関係者とりわけ対中戦略家や東アジア担当者などは、オバマ大統領の東アジア歴訪中の米比新軍事協定署名以上に日本国防当局の積極的な動向に関心を持っている。

那覇基地で「第603飛行隊」が発足

 航空自衛隊は、極めて強力な警戒監視能力を有する「E-767」早期警戒管制機を4機と、E-767よりは控えめな性能ではあるもののアメリカ海軍艦載機として性能には定評がある「E-2C」早期警戒機を13機保有している。

 これらの警戒機のうち、E-767は全て浜松を拠点に運用されているが、E-767が日本全域に近い空域を監視できる能力を有していることから何ら不思議ではない。

 しかし、13機のE-2Cがすべて青森県の三沢基地を拠点に運用されている(いた)状況には、「日本国防当局が南西諸島重視という方針を打ち出しているにもかかわらず、そして現に中国人民解放軍海洋戦力(艦艇・航空機)が南西諸島方面に執拗に繰り出してきているのにもかかわらず、どうして冷戦期のような対ソ警戒配置態勢が維持されているのか?」という疑問が呈されていた。

 そして、日本国防当局による目に見える形での実効的な南西諸島方面防衛力強化がなかなかスタートしないため、「日本政府は南西諸島防衛重視を口にしているが、結局それは口先だけで、米軍基地が沖縄にある限り、アメリカがなんとかすると考えて、国防努力を怠っているのではないのか?」といった懐疑論も少なくなかった。

 その三沢基地の13機の早期警戒機(E-2C)から4機が那覇基地に本拠地を移して「第603飛行隊」が発足することになり、ようやく目に見える形での南西諸島周辺空域での警戒監視活動強化が本腰を入れて動き出した。これにより、那覇には海上自衛隊の「P-3C」対潜哨戒機部隊と航空自衛隊のE-2C早期警戒機部隊が常駐することとなり、空からの警戒監視活動は確実に強化されることになる。

このような動きに対しては、あまりにも当然の措置であるとともにその効果(対人民解放軍)もさして議論の余地もないほど明らかなため、対中戦略家たちはさしたる関心を示していない。しかし、時期を同じくしてスタートした与那国島への陸上自衛隊レーダー部隊配備に関する具体的動きについては関心が持たれている。

“大時代”的な「沿岸監視部隊」という呼称

 そもそも与那国島に常駐して周辺海域空域の警戒監視に当たる陸上自衛隊の部隊が「沿岸監視部隊」と呼ばれていること自体 、その内容を知る以前から、軍事関係者たちが興味を惹きつけられる要因のようである。というのは沿岸監視部隊という呼称は、あたかも20世紀前半までの沿岸防衛態勢を想起させるからである。

旅順要塞を攻撃する日本軍の28センチ榴弾砲。旅順攻撃で活躍したこの巨砲は、日本各地に設置された沿岸防御要塞に設置された沿岸砲を転用したものであった。
(写真:Wikimedia Commons)

 帆走軍艦の時代から第1次世界大戦そして場合によっては第2次世界大戦においても、軍港や戦略要地を敵軍艦による攻撃から防御するために、沿岸海域を防御する海軍部隊とともに、湾口や海峡部それに高地などに砲台陣地を築いて強力な重砲(沿岸砲と呼ばれた大口径で長射程の大砲)を擁する陸上砲兵部隊が配置された。

 航空攻撃とりわけ航空母艦が発達するまでは、陸上砲台による沿岸防衛は威力を発揮した。日露戦争での最大の激戦の1つであった旅順攻略戦などはその典型例である。

 日本軍も東京湾、佐世保、長崎、対馬、基隆(台湾)、津軽など日本各地に沿岸砲を備えた要塞を設置していた。アメリカ軍も日本艦隊の襲撃に備えてシアトルへの入り口にあたる海峡部やサンディエゴ軍港の湾口部に巨砲を備えた沿岸陣地をいくつか構築し、現在も史跡として保存されており、かつて主たる脅威であった戦艦「大和」の説明なども展示されている。

シアトルに侵入する敵艦を狙う沿岸砲、ウィドビー島キャッシー要塞跡にて。 (写真:筆者)

また、日本人観光客で賑わうハワイのワイキキのシンボルであるダイヤモンドヘッドにも、第1次世界大戦前に沿岸砲要塞が構築され第2次世界大戦後に大砲が撤去されるまで襲来する日本軍艦への備えを固めていた(現在、砲兵部隊監視陣地跡はダイヤモンドヘッド・ハイキングコースとなっている)。

ダイヤモンドヘッド山頂の旧砲兵陣地監視所跡。 (写真:筆者)

 このように沿岸監視部隊という語は“大時代”的なイメージを想起させるために、与那国島への陸自部隊配備は、海軍戦略家にとっては興味を掻き立てられる動きなのである。

とりあえずはレーダー部隊のみ

 ただし、そのような“大時代”的な沿岸砲陣地は、迫りくる敵艦に対する警戒監視だけでなく場合によっては敵艦を撃破することが主たる役割であった。しかしながら、与那国島への配備作業が開始された沿岸監視部隊は、周辺海域と空域の警戒監視のためのレーダーシステムしか装備せず、“現代の沿岸砲”である各種ミサイルは装備しないことになっている。また、沿岸監視部隊自身の防御をはじめ与那国島の防衛に不可欠な航空戦力も全く配備されない。まさにその字面の通りに警戒監視のみの部隊となる予定である。

 このような方針に対しては、宮古島や沖縄島に設置されている航空自衛隊の防空レーダーシステムや、上記のように強化が図られることになった上空からの警戒監視能力、それに海上自衛隊軍艦による海からの監視を強化することによって、与那国島に配置される沿岸監視部隊程度の警戒監視能力は十二分にカバーできる、との理由で疑問の声も上がっている。

 実際に、レーダー部隊と軽武装の警備部隊だけでは、丸腰に近い形で貴重なレーダー監視システムを与那国島に設置することになるわけであり、中国軍が“目障りな”警戒監視機能を叩き潰す気になれば簡単にミサイル攻撃で沈黙させることが可能である。また、わずか150名程度の軽武装部隊だけが駐屯しているレーダー基地は、中国人民解放軍特殊部隊によって占領することもそれほど困難ではない。

 もちろん、このようなことは承知のうえで日本国防当局が沿岸監視部隊を与那国島に配備させるのは、「極めて日本的な波風を立てずに徐々に目的を実現させるやり方に違いない」と筆者たちは結論づけている。

 つまり、「将来的には沿岸監視部隊に防空ミサイルならびに対艦ミサイル(それにできれば水陸両用能力)を持った部隊を合体させて、周辺海域・空域の警戒監視と侵入艦艇航空機に対する陸からの迎撃を任務とする海洋防衛部隊(仮称)に発展させるに違いない。ただ、いきなり強力な対艦ミサイルを配備すると、日本国内にも異議を唱える“平和ぼけ”した勢力が多数存在する以上、“とりあえず”警戒監視能力だけの配備からスタートさせようとしているのだろう」ということである。

人民解放軍が嫌がる海洋防衛部隊

 与那国島にレーダー部隊とミサイル部隊からなる陸上自衛隊海洋防衛部隊を設置することにより、日本最西端の国境の島に自衛隊が陣取っているという“防衛の意思を示す”シンボリックな役割のみならず、中国人民解放軍にとっては直接的な軍事的脅威になる。すなわち、与那国島からおよそ150キロメートル圏内を通過しようとする中国海軍水上艦艇や貨物船などは、与那国島からの対艦ミサイル攻撃の恐怖に晒されることになるからである。

 (陸自が運用する陸上発射型対艦ミサイルシステムは極めて高性能であり、監視システムや誘導システムなどから判断すると、与那国島から150~200キロメートルの範囲内の敵艦にとっては極めて恐ろしい存在となる)

 したがって、中国海軍が先島諸島周辺海域での作戦行動を実施するに当たっては、まず与那国島のレーダー装置群と、できればミサイル発射装置を破壊しなければならなくなる。ただし、そのために与那国島を占領したり、与那国島の陸自部隊を壊滅させたりする必要はなく、レーダーサイトや移動式のレーダー装置やミサイル発射装置そのものを破壊すれば十分である。そのための各種手段を人民解放軍は十二分に保持してはいるが、大量のミサイルと貴重な時間を与那国島の小規模地上部隊の監視攻撃能力を無力化するために投入しなければならなくなる。以上の理由により、与那国島に配備される海洋防衛部隊は、中国侵攻軍にとっては厄介な“足かせ”になるのである。

 このように効果的な海洋防衛部隊を与那国島だけに配備する手はない。「もちろん、日本国防当局は百も承知で、これもまた“とりあえず”はシンボリックな与那国島から始めようという、日本的な波風を立てずに徐々に目的を達成させていく戦術に違いない」と、これまた筆者周辺では納得している。

 すなわち、沿岸より150~200キロメートル以内の敵艦に脅威を与える能力を持った海洋防衛部隊を南西諸島の多くの島々に配備すれば、まさに南西諸島は東シナ海の“蓋”となってしまい、それらの海洋防衛部隊の警戒監視能力と攻撃能力を沈黙させてからでないと、中国海軍は大手を振って九州から台湾に至る島嶼線周辺海域での作戦行動はできなくなる。そのためには極めて大量のミサイル戦力を割かねばならなくなり、人民解放軍にとっては絶対に実現してはほしくない厄介なシナリオとなる。

 日本に軍事的脅威を与えている勢力に嫌がられる策を実施していくことこそが国防の真髄である。

与那国島、宮古島、沖縄島、奄美大島、種子島に、海洋防衛部隊を配備すると、東シナ海の“蓋”が完成する。赤円は、対艦ミサイル150キロメートル射程圏。
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