ポジティブリストの弊害 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【集団的自衛権 第1部 欠陥法制(4)】
法制度に自縄自縛の制約 自衛隊の価値低下



「ダウ船(木造帆船)に近づいているぞ」

 2001(平成13)年の米中枢同時テロを受け成立したテロ対策特別措置法に基づき、海上自衛隊が同年に開始したインド洋での給油活動。海自補給艦がアフガニスタン作戦に従事する米軍艦艇に洋上補給中、海自ヘリコプターから指揮艦に緊急連絡が入った。

 「遭難したのか」

 「いや無防備を装い機関銃を発射する恐れもある」

 派遣部隊幹部らが対応に苦慮する中、ダウ船の乗組員1人が海に飛び込み、海自艦艇に向け泳ぎ始めた。幹部は「カナダ艦艇が来るまで動くな」と命じた。

 ◆ポジティブリスト

 遭難者であれば救助すべきだが、部隊行動基準(ROE)に規定はない。遭難者とみせかけて攻撃してくれば、どこまで応戦していいか定かでない。まさにポジティブ(できること)リストの弊害に直面したのだ。

 ポジリストと呼ばれる自衛隊法は、防衛・治安出動、海上警備行動など事態ごとに対応措置を規定し、規定のない行動は取れない。米英両国などは国際法上の禁止行為を除いて状況に応じ任務が付与され、それに必要な武力も行使でき、ネガティブ(できないこと)リストと呼ばれる。

ポジリストであれば、あらゆる事態を想定した精緻(せいち)な法体系が欠かせないが、航空自衛隊OBは「日本は穴だらけのまま放置している」と批判する。

 給油活動は高い操艦技術が求められ、海自の活動は高い評価を得た。だが、指揮官経験者は「ネガリストであれば、さまざまな局面でより適切な措置を講じることができた」と悔やむ。

 給油活動では別の足かせもはめられた。

 米艦艇に提供した燃料がアフガン作戦ではなく、イラク作戦に転用されたとして問題化。アフガン向けの燃料提供は海上テロリストや麻薬の移動を防ぐ任務を下支えするものだが、イラク向けは軍事作戦用で、それは憲法に反する「他国軍の武力行使との一体化」にあたると批判されたのだ。

 これを受け、海自は給油をする艦艇の活動予定の照会を厳格化し、その活動日数分の燃料しか提供しなかった。その結果、大型の艦艇に少量しか給油しないケースも多く非効率との苦情が相次ぎ、各国艦艇が給油後に予定外の任務に対応することも妨げた。

海自OBは「各国にアフガンとイラクで油の色を分けろと強要していたようなもので、活動の評価はがた落ちした」と振り返る。

 一昨年9月、ペルシャ湾に米英豪など20カ国以上の海軍部隊が集結した。機雷を除去する国際掃海訓練が行われ、海自の掃海艦など2隻も隊列に加わった。

 洋上給油と並び、機雷掃海は海自の技能の高さに定評がある。ただ、洋上給油がポジリストの弊害と不条理な油の色分けで悩まされたように、機雷掃海は集団的自衛権の制約で手を縛られた状態が続く。

 戦闘前や戦闘中の段階で機雷をまくことは「作戦行為」にあたり、機雷を他国軍とともに除去すれば集団的自衛権に抵触する-。この政府見解の下、海自が参加できる機雷掃海は戦闘停止後に限られる。1991年の湾岸戦争でも海自が掃海艇をペルシャ湾に派遣したのは戦争終結後だった。

 「停戦協定などで『遺棄機雷』になるまで参加できない状況でいいのか」。政府の有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が問題提起し議論を重ねるのは、「これまで以上に国際社会の平和と安定に寄与する積極的平和主義」(安倍晋三首相)の真価が問われるからだ。

◆いびつな参加方法

 「自衛隊は集団的自衛権に制約がありまして…」

 他国軍との共同演習に参加する際、自衛隊の調整担当者がこの特異な事情を伝えることが「儀式化」している。

 海自幹部は「米軍は事情を分かっているが、他の国の担当者は『お前は一体何を話しているんだ』と不思議そうな顔をして聞いている」と語る。

 今年6月から8月にかけ米ハワイ周辺海域で行われる「環太平洋合同演習(リムパック)」には陸上自衛隊が初参加する。

 演習にはオーストラリアや韓国など20カ国以上が参加する見通しだが、陸自は米海兵隊だけとの特別な枠組みを設けてもらい、水陸両用訓練を実施。海自は武力行使を前提としない海賊対処や災害救援の訓練のみ参加する。

 いびつな参加方法を強いられているのは、「日本有事で共同作戦を行う米軍とは仮想敵を見立てた戦闘訓練を行えても、米軍以外とは集団的自衛権に抵触するとして行えない」(陸自OB)からだ。法制度の自縄自縛により実任務で各国部隊に支障を来させ、訓練で特別扱いを求める状態が続けば、「自衛隊の価値をおとしめる」(防衛省幹部)だけだ。