舛添氏は尖閣寄付の活用策示せ 東海大学教授・山田吉彦
《東京は世界屈指の海洋都市》
東京都は、海洋国家日本の首都であり、世界屈指の海洋都市である。東京港は、貿易輸入額で国内1位、貿易総額では自動車輸出港の名古屋港に次ぐ2位の巨大港湾である。水産物取引では、築地市場が取扱高全国1位であり、日本の台所といわれている。
さらに、世界で6番目の広さとされる、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積約447万平方キロメートルの約40%は、東京都の島嶼(とうしょ)を基点に広がる海域である。特に、東京都に属する日本最南端の沖ノ鳥島、最東端の南鳥島と、広大な海域にわたり点在する小笠原諸島は、他国の管轄海域や公海とも接し、日本の海洋権益を支えているといえよう。
国境離島と呼ばれるこれらの島々を管理するのは東京都であり、海洋権益を維持するため、都が都民のみならず国家と国民に対して果たすべき責務は大きい。
石原慎太郎都政下では、小笠原諸島の世界遺産指定、同諸島へのテクノスーパーライナー運航の構想、沖ノ鳥島周辺海域の開発、島嶼部での自然災害対策など海洋利用、海洋管理に目を向けた施策が検討された。今回の都知事選ではしかし、海洋問題への対処は政策論争すら行われていない。
2012年、石原慎太郎知事は「尖閣諸島は東京都が守る」と宣言して、尖閣諸島購入計画を打ち出し、都は都民のみならず一般国民に呼びかけて、尖閣諸島活用のための募金を行った。都による購入計画は、中国による海洋進出攻勢を尖閣への脅威とみた多くの国民の賛同を受け、約14億7000万円の浄財が寄せられた。
だが、民主党政権が尖閣諸島のうち3島を購入したことで、この寄付金は宙に浮いてしまう。その後、石原知事が辞任したこともあって、募金の取り扱いがそれに応じた人たちに対し、不透明になったことは否めない。寄付者の中からは、「詐欺的行為だ」「募金を返せ」との声も上がった。
《宙に浮いたままの14億円》
翌13年に、東京都は 寄付金のうち調査費や啓発のための広告費を除いた約14億円を、「尖閣諸島活用基金」として、国による尖閣諸島活用に関する取り組みに拠出することとした。この基金を設けるに当たっては、石垣市など地元自治体と連携して、国に対する提案などを行うとしている。
尖閣諸島について、東京都が国に要望した事項は、国有化当時に提案された地元漁民のための船溜(ふなだまり)の設置、通信施設の建設、諸島最大の魚釣島の生態系を脅かす野生のヤギへの対策、漂着ゴミの除去などである。しかし、これらの要望は、都が国に定期的に提出している要望事項に盛り込まれるにとどまっており、具体的に国と調整を図る動きはみられない。
尖閣諸島をめぐる情勢は民主党政権が国有化して後、悪化の一途をたどっている。中国は常時、尖閣周辺の日本の管轄海域に海警局の船を送り込むようになり、尖閣諸島を含む東シナ海の上空に防空識別圏を設定するなど、その攻勢はとどまるところを知らない。これに対して、わが国政府による尖閣諸島の管理体制の構築は、なおざりにされたままである。
自民党は、尖閣への公務員の常駐を公約に掲げて衆議院選挙に勝利し、安倍晋三政権を発足させたにもかかわらず、尖閣対策は先送りされ1年余が過ぎてしまった。確かに、状況が刻一刻と変わりゆく中で、公約にがんじがらめに縛られる必要はない。ただし、公務員を常駐させられないのなら、代替案を示すべきであろう。
《多角的活用で諸島の防衛を》
日本政府が行ってきた海上保安庁による監視体制の強化は重要だが、こうした「対症療法」だけでは問題の本質的な解決には結び付かない。日中双方が巡視船、警備船の数を増やすといういたちごっこになるだけではないか。
尖閣を恒常的に管理する体制を構築しない限り、中国の動きに歯止めをかけることはできない。そのためには、警備力、防衛力の強化と合わせて、諸島の活用を推進することが必須であろう。
東京都は購入計画の過程で、アホウドリなどの稀少動植物の調査や海洋環境教育の推進、離島周辺海域における漁業の推進と水産資源の保護など、小笠原諸島での経験を活かし、尖閣を多角的に活用することを検討していた。
多くの国民は、国よりもむしろ東京都の叡智(えいち)に期待して寄付し、尖閣諸島の活用を委ねようとしたのである。基金を使うに際して、都独自の計画も持たずに国に丸投げしたのでは、募った側としての責任は果たせないだろう。
寄付した人たちの善意に応えるためにも、舛添要一新知事は、東京が世界に冠たる海洋都市であることに思いを致したうえで、尖閣諸島の活用に関する提案を行うべきである。そのためには、小笠原諸島の事例などを踏まえて、環境保全と開発行為を両立させる方策と、国有化された尖閣の管理に都として協力するやり方を改めて検討し、基金活用に向けて国に具体的に提言してもらいたい。(やまだ よしひこ)