「戦後継続」論を象徴。米は大学と連携し技術開発。
ZAKZAK 夕刊フジ米国では戦前、国内の科学者を集めて陸海空軍からの要望を形にする組織、国家防衛委員会(NDRC)があったことを前回書いた。
他方、わが国では優れた技術を発明していながらも、それに気付かず、国力にできないばかりか敵国に流出させ、自国の技術に斃(たお)れるという悲劇も生んだ。
「あの戦争の過ちを繰り返すな」などと言われるが、こうした痛恨の失敗こそ二度と繰り返してはならないだろう。
ところが、敗戦国である日本では戦後、防衛技術の育成など到底許されなかった。徹底した占領政策、そして国民は軍事アレルギー体質になり、科学技術を国防に生かすことは「軍事転用」だとして批判の対象になってしまった。
「日本の『戦後』は、まだ続いている」
独立を自ら勝ち取ったわけではない日本は、真に独立したのではなく、「戦後」のままなのだと言われることがしばしばある。防衛技術についても、いまなお完全な独立を果たしたとはいえない。
例えば、独自開発を目指したF2戦闘機が米国との共同開発に持ち込まれたことは有名だが、これは結果的に、機体に使用されている炭素繊維等複合材一体化成形技術など日本の技術を米国に提供することになった。こうした経験から「出る杭は打たれる」「技術は取られる」という、暗黙の諦めのようなものもある。
こうした報われない事実や、学術界に軍事嫌いが根強く残っていることも「戦後継続」論を象徴しているだろう。よく「産官学の協力が必要」と言われて久しいが、実際はいまなお「軍事お断り」の看板を掲げる大学は多いのである。
東京大学の情報理工学系研究科のガイドラインには「東京大学は、第2次世界大戦およびそれ以前の不幸な歴史に鑑み、一切の例外なく、軍事研究を禁止する」と明示されており、他にも内規で同様に定めていたり、自衛隊との関わりを拒絶する大学は少なくない。
「中国人留学生はたくさんいるのに…」
当事者は苦笑するしかないようだ。
大学が軍事パワーと強固に結びついている米国では全く違う構図がある。投資も欠かさず、多くの軍事技術が大学と連携しており、ほとんどを防衛産業の自助努力に依存する日本とは対照的だ。その上、米軍では日本の大学に基礎研究を委託しているものもあるようだから驚く。
こうした実情のなか、昨年、政府の教育再生実行会議における安倍晋三首相の発言は画期的だった。大学の機能を強化しようという方針を打ち出したのだ。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)、「武器輸出だけでは防衛産業は守れない」(並木書房)など。
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