領土問題の基礎。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

『解決! すぐわかる日本の国境問題』山田吉彦著



■領土問題の基礎が身につく

 尖閣をはじめ竹島・北方四島の問題について報道されることは多いが、その歴史的背景やそもそも「領土」「領海」「排他的経済水域」とはなにか、果たしてどれほどの人がきちんと踏まえた上で、そのニュースに触れているだろうか。「国際司法裁判所に訴えたらいい」といった声もよく耳にするが、その実態を知らず、国内の裁判所の延長でとらえている節もあるように思う。Q&A方式の平易な言葉で記された本書は、肩肘(かたひじ)張らずに領土問題の基礎知識を身につけられる好著だ。

 「国際関係をおもんぱかるあまり、国家の主権、国民の尊厳を日本政府は見失ってしまったのでは」。著者はそう疑問を呈した上で、東京都の尖閣専門委員として一昨年9月の国有化直前、調査船から自身の目で見た尖閣の自然の豊かさとそれを蝕(むしば)む諸問題に触れ、また3つの岩礁を無登記で標識もないままにしていることに警鐘を鳴らし、それらを解決するためにも「海洋保護区」として緩やかな実効支配強化を行うことを提唱している。

 評者はこれまで十数回にわたり漁船で尖閣諸島を訪れているが、野生化したヤギによって食い荒らされている魚釣島の下層植生や堆積する大量の漂着ごみを目の当たりにして対策が急務であることを痛感しているだけに、著者の指摘には膝を打った。また同じく中国の海洋進出に脅かされている南沙諸島では、5カ国が入り乱れて島々を実効支配していることを考えれば、岩礁も含めた尖閣海域を一体として保護区にする意義も頷(うなず)ける。

日本の人口約1億2千万人のうち、離島、つまり、北海道、本州、四国、九州、沖縄本島以外に住むのはわずか70万人ほど。しかし、実は、この70万人が日本の海を支えている。「島々で暮らす人々の生活を守り、無人島もしっかり管理する体制構築を」という主張には、北は択捉島から南は沖ノ鳥島まで数々の島を回ってきた著者の、島々とそこに暮らす人々への優しい眼差しを感じた。「海に守られた日本から海を守る日本へ」。結びの言葉がいい。(海竜社・1680円)

 評・葛城奈海(キャスター、予備自衛官)