【解答乱麻】堂々と発信できる人材育てよ。
元高校校長・一止羊大
昨年暮れ、安倍晋三首相がついに靖国神社に参拝した。国家に殉じた人々の魂を英霊として崇(あが)め、尊崇の念をもって慰霊し、感謝の誠を捧(ささ)げるのは、一国の首相として当然のことである。だが、韓国や中国及びロシアやEU、それに同盟友好国の米国までが、首相の靖国参拝を責めたてている。
いわく「戦犯を合祀(ごうし)している靖国神社を参拝したことは誤った歴史認識」(韓国)、「日本軍国主義の復活だ」(中国)、「日本の『侵略』の犠牲になった人々を苦しめる行為だ」(ロシア)、「地域の緊張緩和や中韓両国との関係改善の助けにならない」(EU)、「近隣諸国の緊張を悪化させる行為で、失望した」(米国)。
よくもまあ言えたものだ。自らを省みて言ってもらいたい。「歴史認識」を云々(うんぬん)する韓国こそ、歴史を捏造(ねつぞう)して今も竹島を蹂躙(じゅうりん)しているではないか。軍拡に走り尖閣諸島等へ侵略の手を伸ばしている中国に、日本を「軍国主義の復活だ」と非難する資格などありはしない。北方領土を現に侵略しているロシアが、「日本の侵略」に結びつけて首相の靖国参拝を批判する鉄面皮には、呆(あき)れてしまう。EUと米国の言い草も、韓国や中国に一方的に肩入れしていて、とても受け入れられるものではない。
そもそも「日本の侵略」や「戦犯合祀」という批判自体が悪意と誤解に満ちている。「日本は自衛のために戦争をした」とあのマッカーサーが証言したように、「日本が侵略戦争をした」との決めつけはとうの昔に破綻しているのだ。また、刑死及び獄死した「戦犯」は、講和条約発効後すべて「公務死」として扱われることになり、服役していた「戦犯」も関係諸国の了承のもとに釈放されて名誉を回復しているのである。
敗戦後、日本は日本列島以外の領土をすべて放棄させられ、軍隊を持つことも許されず、ひたすら恭順と専守防衛に徹してきた。戦後70年近く、どこの国とも戦火を交えていない世界に冠たる平和国家なのだ。首相の靖国参拝もその一環に位置づくものであり、記者会見における首相の言葉は、端的にそれを裏づけている。
「…ご英霊に対し、尊崇の念を表し、そして御霊安かれなれと、手を合わせて参りました。同時に、…鎮霊社にもお参りをしてまいりました。鎮霊社は、…諸外国の人々も含めて全ての戦場で倒れた人々の慰霊のためのお社であります。…二度と戦争の惨禍の中で人々が苦しむことのない時代をつくっていくという決意をお伝えするために参拝をいたしました…」
古代通商国家カルタゴの悲劇が脳裡(のうり)をよぎる。敗戦で本土以外の領土をすべて奪われ、軍船ばかりか商船までも放棄させられて、ひたすら恭順と専守防衛に徹していたカルタゴを、ローマ帝国等は問答無用に殲滅(せんめつ)したと歴史は伝えている。この度の韓・中・露・欧米諸国の反応は、ローマ帝国等の仕打ちを想起させ、薄気味悪い。
残念ながら、日本のマスコミの多くは日本人でありながら日本を貶(おとし)め、韓国や中国の反日宣伝に阿(おもね)る言辞に明け暮れている。市井の意識も、世論調査の結果が示すように、決して高いとはいえない。
カルタゴの悲劇が日本に降りかからないようにするためにも、日本人としての自覚と誇りをもって堂々と日本の主張を発信できる人材を育てることが必要だ。教育改革は、もはや待ったなしである。
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【プロフィル】一止羊大
いちとめ・よしひろ (ペンネーム)大阪府の公立高校長など歴任。著書に『学校の先生が国を滅ぼす』など。