【中高生のための国民の憲法講座】「国防の義務」と戦没者慰霊
第30講 八木秀次先生
戦没者慰霊は国防・安全保障の根幹です
前回は、近代の「国民国家」の国民は「国防の義務」を負い、その国の「潜在的兵士」という性格を持つこと、従って外国籍の人に国政・地方問わず参政権を付与するのは主権国家の行為として論理的に成り立たないこと、一部に外国人参政権の主張があるのは憲法に「国防の義務」の規定がなく国民にその自覚がないからであると指摘しました。
◆安全保障の根幹
しかし「国防の義務」があるといっても全員が軍隊に入るわけではありません。かつては全員を対象にした徴兵制が一般的でしたが、戦争がハイテク化した今日では精鋭のプロにしか対応できず、多くの国が志願兵制に切り替えています。
戦争は避けたいことです。しかし、領土や主権が外国に脅かされ、外交で解決できない場合にはやむなく武力衝突という事態もあり得ます。その際、戦闘員が不幸にも傷ついたり、亡くなることもあります。
その人たちは「国防の義務」を負う国民全員に代わって領土や主権を守るために戦い、傷つき、亡くなった方々です。それゆえ政府は国民を代表してその方々(戦没者)の行為に感謝し、死を悼み、慰霊しなければなりません。これはどの国も行っている普遍的なことです。
もし、政府が感謝もしてくれなければ、誰が自分を犠牲にするでしょうか。戦没者慰霊は国防・安全保障の根幹です。そして慰霊はその国の伝統宗教の形式で行うのが一般的です。
昨年末の安倍晋三首相の靖国神社参拝はそのような意味を持つものです。残念ながら靖国参拝は外交問題になっています。しかし、本来は「国民国家」の国民を代表する政府としての当然の行為で、批判されるようなことではありません。
その安倍首相が進める憲法改正について中国が「右傾化」「軍国主義」と批判しています。しかし、中国が日本の憲法改正に反対する理由ははっきりしています。
◆中国の意図
中国は「第一列島線」突破を当面の目標としています。第一列島線とは、九州を起点に沖縄・台湾・フィリピン・ボルネオに至るラインのことで、内側の尖閣諸島、西沙諸島、南沙諸島を中国の領土とする「領海法」も制定しています。
中国の研究機関が発表した『2012年日本の軍事力評価報告』(同年6月)は、現在の自衛隊は中国の脅威ではないが、「平和憲法の制約」ゆえであり、今後の憲法改正や防衛力の強化は「中国海軍の第一列島線突破を牽制(けんせい)するもの」と分析しています。中国は自国の海軍が海洋進出し、尖閣諸島を含む南西地域を領土・領海にすべく、日本の憲法改正に反対しているということが分かります。
「軍国主義」は憲法改正しようとしている日本ではありません。紛れもなく中国の方で、日本はそれを抑止し、固有の領土・領海を守るためにも憲法改正しなければならないのです。話はあべこべです。日本国内で憲法改正に反対している人たちも中国のそのような意図を容認し支持しているといっていいでしょう。冷静に判断することが必要です。
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【プロフィル】八木秀次
やぎ・ひでつぐ 高崎経済大学教授。早稲田大学法学部卒、同大学院政治学研究科博士課程中退。専門は憲法学、思想史。政府の教育再生実行会議委員、フジテレビ番組審議委員、日本教育再生機構理事長。著書は『国民の思想』(産経新聞社)、『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。51歳。