【国防最前線】自衛隊病院の構造的欠陥。
患者が増えるほど出費も増え…。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20140120/plt1401200749000-n1.htm最初に、連載第3回に説明不足があった。自衛官の官舎について、「これまでは、駐屯地や基地から100メートル未満は無料であった」と書いたが、「緊急参集要員に指定された隊員の官舎のみが対象」だった。
さて、前回の続きだ。防衛省では、ここ数年、防衛医大や自衛隊病院などの施設を、もっと機能させる必要があるとして、それまで自衛隊員やその家族に限られていた自衛隊病院の一部をオープン化した。
これは、自衛隊医官の能力向上にもなり、かつ地域医療への貢献もできるという、まさにWIN-WINの施策となるはずであった。
ところが、ここに大きな誤算があったのだ。実は、この診療報酬は病院ではなく国庫に入ってしまうのである。つまり、治療にかかる経費は「病院もち」なのだ。
もちろん、患者側としてはそんなことはあずかり知らないことである。だが、自衛隊病院としては患者が増えるほど出費が増えるという、トンデモ構造がスタートしてしまったことになる。
「患者さんを受け入れたい、しかし、これ以上できない」
そんな状況が発生してしまうのだ。特に、大掛かりな手術が必要な場合などは、コストもかかる。そうなると、お金が足りないので「民間病院へ行っていただくしかないんです」と関係者はため息をつくばかりだ。
ある病院では、予算が底をついてしまい、次年度まで診療できない状況になってしまったという話も聞く。そうなると、一般患者ばかりか、肝心の自衛隊関係者までも治療が受けられないという本末転倒な事態になってしまうのだ。
自衛隊員だって「では、我慢しましょう」などというわけにはいかない。頼るべき自衛隊病院を信頼できなくなり、多くが民間病院に救いを求めるようになってしまいかねない。そうならないために病院としては、普段から薬を出してもせいぜい3日分くらいにしたり、高額な診療は行わないなどの涙ぐましい努力をしているようだ。
「あまり張り切って手術などしたら、同僚に迷惑をかけてしまいます」
こうした、聞けば聞くほどおかしな仕組みを改善させるためには、クリアしなくてはならない予算制度などさまざまな壁があると思われる。
だからといって放置していい問題ではない。防衛省の「在り方検討」の報告書にも「部外者診療の増加によって生じる医療費の増加への対策を併せて検討する」とあり、具体的な取り組みが期待されるところだ。
また、人手不足などの要因もあり、災害時にベッドが空いていながらも患者を受け入れられないという現状も喫緊の検討課題といえるだろう。
「命を助けたい」という強い志で防衛医大の門をたたいた貴重な人材が、苦渋の思いで自衛隊を去っていく…、そんな姿を二度と見ることのないような施策を求めたい。 =おわり
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)、「武器輸出だけでは防衛産業は守れない」(並木書房)など。