いわゆる「A級戦犯」分祀論。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

【阿比留瑠比の極言御免】「A級」分祀、万一譲っても中韓には無意味。

どうしてこんな単純明快なことが彼らには分からないのか、本当に不思議でならない。民主党の前原誠司元外相は5日のTBS番組で、安倍晋三首相の靖国神社参拝に関連してこんな自説を展開していた。

 「何らかの形でA級戦犯を分祀(ぶんし)し、外交問題化すべきではない」

 何度も蒸し返されては、そのたびに立ち消えてきたいわゆるA級戦犯分祀論である。この筋の良くない話が、官邸内や外務省の一部でもささやかれているのだから手におえない。

 前原氏はA級戦犯を分祀すれば、靖国が外交問題化しなくなると言いたいようだが、あまりに粗雑で甘すぎる議論ではないか。

 そもそも、宗教法人である靖国神社側は「(神道の教義上)それはできない。ありえない」(湯沢貞元宮司)と分祀論を一蹴しており、政治の介入は政教分離の原則上も許されない。

 仮に万一、その点がクリアできてA級戦犯を分祀したとしても、何の解決にもならないだろう。

 中国は今度は、現在は対日カードとして温存中の靖国に祭られた千人以上の「BC級戦犯」に焦点を当て、再び対日批判を仕掛けてくるのは火を見るより明らかだからである。

中江要介元駐中国大使は平成12年4月の国会で、中曽根康弘首相(当時)の昭和60年8月15日の靖国公式参拝に対する中国側の認識を証言している。同年12月8日に中国の胡耀邦総書記に昼食に招かれた際、胡氏はこう指摘したという。

 「靖国には戦犯が2千人もいるじゃないか。戦犯というのはAもBもCもみんな変わりはないんだ」

 その後、胡氏は「A級戦犯だけでも靖国から外せば、世界のこの問題に対する考え方は大きく変わるだろう」と発言を軌道修正したというが、本音がどちらにあるかは論をまたない。

 国学院大の大原康男名誉教授によると、中国のメディアもこれまで次のように書いており、A級とBC級を特に区別していない。

 「靖国神社は、これまでの侵略戦争における東条英機(元首相)を含む千人以上の犯罪人を祭っている」(60年8月15日付の中国共産党機関紙「人民日報」)

 「そこには260万人の日本軍兵士にまざって、悪名高き東条英機を含む千人以上のA級およびB級戦犯が祭られているからだ」(平成11年11月12日付中国官営英字紙「チャイナ・デーリー」)

 日本と戦争をしたわけでも何でもないのに、なぜか靖国参拝に強く反発する韓国に至っては、もともとA級とBC級を分ける発想があまりないとされる。

 安倍首相の靖国参拝当日に、非難声明を発表した劉(ユ)震(ジン)竜(リョン)・文化体育観光相(政府報道官)は「戦犯を合祀している靖国神社」と戦犯全体を問題視しており、A級だけを分祀したところで効果は望むべくもない。

逆に、強く押せば日本はすぐに譲歩すると中韓に再確認させてしまい、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や竹島(島根県隠岐の島町)の問題で、両国の攻勢を強める結果になりかねない。

 何より、首相の靖国参拝など想定さえできなかった民主党政権時代に、すでに日中、日韓関係は戦後最悪となっていたことを忘れるべきではないだろう。靖国参拝がすべての元凶であるかのような議論は、問題の本質を大きく踏み外している。(政治部編集委員)