進水式は東西問わず神聖で厳粛な儀式
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130813/plt1308130722004-n1.htm
8月6日、海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」(22DDH)の命名・進水式が、横浜市にあるジャパン・マリンユナイテッドの造船所で行われた。「空母だ」「右傾化だ」など、国内外からのさまざまな反応があるようだが、今回は少し視点を変え、進水式にまつわる話をしてみたい。
紀元前にまでさかのぼる船造りにおいて進水式は、洋の東西を問わず神聖で厳粛な誕生の儀式として、最も重要と位置付けられている。一つひとつの所作は細かく定められ、進行時間も1分と狂わない。たまに10時7分開式といった中途半端な設定となる場合があるが、すべては潮の満ち引きから逆算したもので計算の上なのである。
それゆえ、関係者の準備作業の苦労がうかがえる。江戸時代の「船卸し祝」では、棟梁(とうりょう)が7日前から一切の穢(けが)れや不浄を断ち、心身を清めるのが習わしだったという。現代でも、確かにこの日ばかりは、企業の人々が普段のピリピリとした雰囲気とは違う、何とも言えない晴れやかな表情を見せてくれる。
支綱切断に使う斧は悪魔を振り払うとされ、掘られている溝には神のご加護を受けるための深い意味があるという。綱は後に安産のお守りにされるなど、この行事に関わるすべてが縁起物であることが分かる。
それゆえ、何としても失敗したくないと誰もが思うが、うまくいかない場合もある。しかし、そんな時はあいさつをする人の機転が重要だ。「難産の子は丈夫に育つと言います」などとうまく場の空気をリカバーすれば、途端に前途洋々だ。
とにかく、進水式という行事からは、日本が伝統を重んじる成熟した海洋国家であることや、ハプニングにも動じず大人の対応ができることを知ることができるのだ。
また、自衛官も驚くほどの完璧な進行を成し遂げるのは民間企業であるが、これは彼らが自衛隊を知り尽くしているからこそであり、官民が“国防スピリッツ”を共有していることを物語っていると言えよう。
さて、今回の進水式には自民党の石破茂幹事長も出席し、自衛艦旗に丁寧に礼をする姿が目に入った。これは艦艇に乗るときにも必須のルールである。
最近、旭日旗をめぐり韓国が批判的な見解を示したが、石破氏をはじめ参列者は国際常識にのっとり、ためらうことなく敬意を表していた。
何を言われても相手を責めるのではなく、蔑むわけでもなく、堂々と軍艦旗に敬礼をする姿勢が、今、日本人が戸惑っていることに対する答えとなるだろう。
これが大人の国による大人の振る舞いではないだろうか。海洋進出を目指す国が手本としてくれることを期待したい。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ)
1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。