粛々と配備すべし。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【産経抄】8月13日




京都で薩長同盟を仲介し、寺田屋に帰った坂本龍馬は、幕府の捕吏に襲われ、命からがら逃げ延びる。知らせを受けた薩摩屋敷の留守居役、大山彦八は、早速救出に向かう。藩邸に残る者にはこう厳命した。「幕兵がもし押し寄せてくれば、一歩たりとも入れるな」。

 ▼といっても、幕兵から藩邸を守るのはたった一人である。日本の最西端に位置する国境の島、沖縄県与那国島の安全を守っているのは、2人の警察官と彼らの携行する拳銃2丁だけだという。驚くべき事実を知らされたとき、『竜馬がゆく』のこの場面を思い出したものだ。 

 ▼司馬遼太郎はいう。「一人にこれほどの『大命』を凛々(りんりん)とあたえるところが、薩摩の家風をほうふつとさせておもしろい」。しかし、警官2人に「大命」を押しつける日本の国柄を、「おもしろい」と片付けるわけにはいかない。

 ▼なにしろ、中国による領海侵犯が常態化している尖閣諸島から、150キロしか離れていない。台湾はもっと近く、万が一の有事の際は、何千人もの難民が押し寄せてくる可能性さえある島なのだ。

 ▼その与那国町で一昨日、町長選が行われ、陸上自衛隊の誘致を訴える自民現職の外間守吉氏が3選を果たした。ただ、反対派候補との得票差はごくわずかだ。これで部隊の配備がすんなり実現すると楽観はできない。

 ▼もっぱら経済効果を強調してきた外間氏は、10億円の「迷惑料」を国に要求して計画を迷走させた張本人でもある。それにしても、町議会が自衛隊の配備を求める決議を採択したのは、昭和40年代に遡(さかのぼ)る。周辺海域の防備を固めることがいかに重要か。国が前面に出て島民を説得し、自衛隊の「かくも長き不在」に、一刻も早く終止符を打たねばならない。