悪質ブローカー急増懸念。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【再び、拉致を追う】第8部 国境の情報戦(3)




金正日(キム・ジョンイル)総書記が死去し、金正恩(ジョンウン)第1書記が実権を握ると、中朝国境に大きな変化が表れた。脱北者の徹底摘発が始まったのだ。

 脱北者が知る北朝鮮情報の中には、外部に漏れるとまずいものも含まれている。拉致被害者に関する情報を脱北者が口にすれば、逃走や潜伏、受け入れを支援するブローカーに情報は伝わってしまう。金第1書記は「脱北を夢にも見ないほど摘発を徹底しろ」と指示したとも伝えられた。

 韓国の脱北者らが運営する自由北朝鮮放送の李ソギョン局長(42)は「情報こそが政権を揺るがすと痛感しているからだ」とみる。政権移行後の昨年1年間に韓国に入国した脱北者は1509人で、前年と比べ半数近くに激減した。

 命がけの逃避行。資料や書類などの持ち出しは一層、困難になった。資料といっても、「機密文書」などではなく、「電話帳」のような日用品も重宝された。相手が答えるかは別にして、片っ端から電話を入れて情報収集することも、手段としてはあるからだ。

 100ドル(約1万円)以下で取引されてきた電話帳の売値は摘発強化後、30倍に。情報の高騰で、買い手だった各国の民間団体や情報機関は買い控えるようになっている。

 ■人権活動が筒抜け

 中朝国境地域に入る外国人は狙われている。中国当局による拘束は日常化し、不審死した韓国人もいた。

 昨年3月、北朝鮮の人権問題に取り組む活動家の金永煥(ヨンファン)氏(50)ら韓国人4人が中国東北部で中国当局に逮捕され、114日間も拘留された。金氏は帰国後、「拷問を受けた」と証言したことから、中韓の外交問題にも発展した。

一緒に拘留された柳在吉(ユ・ジェギル)氏(44)は13年間、中朝国境で情報収集を続けてきた。これまでは無事だったが、金正日総書記死去と前後して「嫌な予感がした」という。北朝鮮内の協力者が拘束されたとの情報が伝わってきたからだ。

 協力者が誰と接触しているのかが分かってしまえば、人権問題に取り組む韓国人側の動きは筒抜けになる。「中国当局がわれわれには手を出すはずがない」と楽観していた矢先に逮捕された。

 中国当局が北朝鮮側の意向を受けて、摘発に協力的な姿勢を取っていることを示している。協力者らはそれ以降、当局の監視下に置かれ、柳氏らの情報網は完全に壊滅した。

 ■北工作員が連行

 中国吉林省延辺朝鮮族自治州。中朝国境に位置し220万人の人口のうち4割が朝鮮族だ。ほとんどは清朝末期から新中国建国(1949年)までに朝鮮半島から移ってきた住民で、国籍は中国だが、韓国や北朝鮮からは「同胞」と呼ばれている。韓国に出稼ぎに行ったり、北朝鮮との貿易に従事する住民も多い。

 韓国や北朝鮮から人々が身を潜めても溶け込みやすい土地柄といえる。中朝国境を流れる豆満江は水が少なく、北朝鮮工作員も頻繁に行き来しているのだ。

 工作員らは「脱北者の支援」「機密情報の売買」「麻薬の密売」などに関わっているとされる朝鮮族の住民を年間10人前後、中国から北朝鮮側に連行しており、累計するとその数は百人規模に上るという。

 家族が被害届を出しても、漢族が主導する地元警察は、外交トラブルに巻き込まれたくないため、ほとんど捜査に動かない。

 国境周辺の摘発・取り締り強化によって、良質の情報が得られにくくなった今、拉致被害者に関する偽情報をつかませ、一気に稼ごうとする筋の悪いブローカーが急増することも懸念されている。