◆オバマ政権は、利害関係がぶつかる国に対して対決を避ける
古森 さて、こういうアメリカ側の人たちが一生懸命やってくれるのは、なにも日本が好きだからということではありません。この人たちの拠って立つ姿勢をみていると、やはりアメリカという国をすごく、単純な言い方ですが愛している。アメリカの国益、アメリカのよって立つ基盤、アメリカが世界で広げようとしている思想、イデオロギー、道義に対して非常に強い思い入れがある。
だからある意味でアメリカのナショナリストたちである。こういう人たちこそ、なんのの罪もない若者や少女が突然自分の家の近くで連れ去られて30年も帰ってこないということに対する人間レベルでの憤りが非常に強い。
やはり今のアメリカは日本との協力を緊密にしていくことが、結局アメリカにとってもプラスになるんだと、アメリカの立場を考えての日本に対する、こちらからすると非常に心の温まる協力というのがあるわけです。
ではいま、オバマ政権となってどうなのか。
基本的に日本側の拉致問題を日米の懸案とみて、協力をするという基本姿勢はいまも続いています。しかし、オバマ政権は日本側の要望にも関わらず、北朝鮮をテロ支援国家に再び指定するということはしません。
やはり歴代の政権と同じように、公の場面では、北朝鮮が核兵器を開発しない、核武装しない、まして核弾頭を軽く、小さくして長距離ミサイルの上に積むようにしてアメリカに届かせる、グアム島やハワイに届かせる、というような動きを北朝鮮はとっているわけですが、それをまずなんとか阻止することで一生懸命やっています。
同時に、北朝鮮の人権弾圧をも非難するという北朝鮮人権法に体現される北朝鮮政策の重要部分というのはオバマ政権にもあるわけです。この中に日本人拉致という要素も入ってくるわけです。
ブッシュ政権が終わりの時期に、北朝鮮をテロ支援国家指定からはずしてしまったということに対して、共和党も民主党も対立というか、意見の衝突は激しいですから、ブッシュ政権が間違った解除措置をとったからいろいろまずいことが起きたとして、批判するという面もあります。民主党政権が共和党の前政権を批判
するという構図です。その構図からオバマ政権も北朝鮮に対しては強い態度を取り続けなければいけないという姿勢も出てきます。
オバマ政権の民主党側ではオバマ大統領に非常に近かった、影響力の大きかったダニエル・イノウエという上院議員がいました。日系の上院議員です。この間亡くなりました。この人の日本の拉致問題への新たな支援も特筆されるべきです。
イノウエ氏は第2次世界大戦でアメリカ軍将校として参戦し、イタリア戦線で活躍して、片腕を失ってしまった人です。この人は民主党だったんですが、ごく最近になって、拉致問題にも非常に同情的な態度で耳を傾けてくれました。
日本からの代表団には現職上院議員として、きちんと会ってくれて、一生懸命に支援と激励をしてくれた。ですから、オバマ政権になったから拉致問題での日本支援が減ってしまったということでもありません。
ただしオバマ政権というのは、利害関係がぶつかる国、例えば中国に対してはソフトなんですね。なるべく対決を避けるところがあり、その傾向は北朝鮮に対しても出てくるという側面もあります。
北朝鮮がこの春に、「アメリカに核ミサイルをぶちこむぞ」としか受け取れない言明をしました。これに対してオバマ政権がやったことは、ミサイル防衛網をちょっと復活して増やすという、非常に受動的な措置だけでした。反発の強い言明さえもしない。本来でしたら、アメリカに核攻撃をかけると宣言する国が出てくれば、歴代政権ならば、その相手に報復をして、「一挙に北朝鮮の存在を止めてしまう」とか、「廃墟になってしまう」という露骨な言明をしていました。そのことが北朝鮮の冒険主義的な核攻撃を事前に抑制する。つまり核抑止の原則です。
朝日新聞がつい数日前か、元国務長官のコリン・パウエル氏にインタビューして、「核兵器は無用」というような言明を引き出して、一生懸命にプレイアップしていました。しかし実はコリン・パウエルさんはかつて「北朝鮮がもし核兵器でアメリカを攻撃すれば、アメリカの核報復によって、燃えた後の練炭のようになってしまう」と述べたこともあります。
「アメリカに核ミサイルをぶちこむぞ」ということを、まともに言った国に対しては、少なくともそれくらいのことを言葉で返すというのがこれまでのアメリカ歴代政権のパターンだったのです。
しかしオバマ政権というのは、「アメリカに核ミサイルをぶちこむぞ」と言われても、ソ連だってそんな露骨な言い方はしなかったのに北朝鮮は平気でいっているわけですが、きわめてソフトな言葉しか返さない。ソフトなアプローチが成功するケースも多いのでしょうが、どうも強く北朝鮮を追い詰めていく姿勢に欠けるところがあるようにみえます。
◆アメリカ人なら軍事力を使って取り返す
拉致問題というのは、オバマ政権にしてもブッシュ政権にしても、アメリカ政府にとって、あるいは国民にとって、自分の国の国民が外国に連れ去られていまもそこにいるという状態は非常に分かりやすいんですね。許しがたいことであり、それにどう対応するかは、明確だということになります。
アメリカだったらどうか。先ほど申し上げたラリー・ニクシュという議会調査局の専門官は、「もしアメリカ国民が、すぐ近くにあるキューバ、百何十キロしか離れていないキューバのカストロ政権に拉致されていることがわかったら、アメリカは間違いなく軍事力を使って取り返そうとする」と、何度も述べたことがあります。
それこそ国家観というか、先ほど申し上げたチャーチルの言葉と重なってくるわけです。しかし我々日本は、「とにかく武力はいけない。戦いはいけない」ということでずっときています。日本国民の人命救出の場合どうなのか、物理的な力を使うこと、つまり軍事手段で救えることがもし確実となった場合、それでも憲法の制約その他により日本政府はなにもしないのか。これは拉致問題によって提起された日本の国家の根幹に関わる課題ですよね。
アメリカは歴史的にも、自国の国民が外国に誘拐された時、非常に敏感になって、国家全体で立ち向かっていく。
古い例では、1904年、セオドア・ルーズベルト大統領の時、モロッコでアメリカ人の子ども、後で分かったのは実は元アメリカ国籍だったそうですが、その子がモロッコの軍閥のトップのような一派に誘拐されました。大統領は、それだけででもアメリカの海兵隊を送りこみ、モロッコ側と戦わせたのです。カの海兵隊を出した。
このエピソードが映画になりました。アメリカ映画をお好きな方はご存知かもしれませんが、「風とライオン」という映画です。ショーン・コネリーが子どもを拉致する側のトップ、キャンディス・バーゲンという魅力的な女優がその少年の母親役でした。
ベトナム戦争に関しても似た実例がありました。私はベトナム戦争の報道をした体験があるんですが、ベトナム戦争が終った後、行方不明になっていたアメリカ兵が多数いました。これを探し出す、救い出す。その作業がアメリカの政府でも民間でも国民の悲願のように叫ばれました。
MIAという言葉がその標語の中心でした。「ミッシング イン アクション」といって、戦闘中に行方不明になったことを指します。その行方不明米兵たちをどんなことをしても救出せよ、というわけでした。この人たちが実は北ベトナムの捕虜収容所に入れられていて、これを助けなければいけないという指摘となりました。
そのベトナムのMIAが国民的なテーマになって、これも映画になった。チャック・モリスというキック・ボクシングがすごく強い映画スターが主演して、ベトナムに捕らわれているアメリカ軍の捕虜たちを救出にいくという奇襲作戦を展開する「ランボー」みたいな映画がシリーズとなって、何本も作られ、人気を博しました。
これこそアメリカの反応です。同胞が捕まったら必ず助けなければいけないという国民感情のコンセンサスがあって、それがそういう形で表現されていたということです。もうひとつの実例をあげます。
1979年11月には、イランのイスラム革命で、テヘランのアメリカ大使館の外交官たちが人質になった。これは連れ去られたのとは違いますが、52人が捕まって、毎日テレビカメラの前で、目隠しされ、両手を縛られていて、アメリカは悪いことをしていたと告白させられた事件です。
その時の大統領が、ジミー・カーターという人で、結局レーガン大統領候補に大敗するんですが、このイラン人質事件により、あまりにもひどいアメリカの屈辱だということで、カーター現職大統領の人気が急降下しました。
このカーター大統領でさえ、秘かにこの外交官たちを救出する軍事作戦を実行したのです。テヘランは深い内陸部にあって、砂漠の上を超低空で飛ぶヘリコプターを出して、テヘランに入って外交官たちを救出して戻る作戦を立てたんですが、途中でヘリが落ちて無残な失敗をしてしまいました。
しかしそこには、捕らわれた同胞は救うのだということのコンセンサスが間違いなくあったわけです。
ですから、こうしたアメリカの実例が示すように、アメリカ国民一般にも日本人の拉致問題はわかりやすい。こんなひどいことが現在進行している現実はアメリカ側に通じやすいということなのです。
さて、これからの課題です。やはりアメリカとの関係においては、アメリカの現実の姿勢を理解する必要があります。人道主義に基づく日本の拉致事件への同情や理解は強いとはいえ、政府の政策としては北朝鮮の核武装の阻止ということを最大の主眼としています。政策の中心にしている。それに付随して長距離ミサイルの開発も阻止する。そして同時に北朝鮮の中の人権侵害の状態を変えるべきだと主張する。
アメリカの政策の順番、重点としては、そうした感じなのです。ですから、日本側が拉致された日本国民を救い出すことが最大の目標だと述べる時に、アメリカ側では必ず、では核・ミサイル問題との調整をどうするか、という反応が起きます。この点は拉致問題の解決を基本の政策目標として掲げる安倍政権も十二分
に承知している基本点です。安倍総理も当然、考えているでしょう。しかしこの点がこんごも課題として残るわけです。
さて以上がアメリカはいままでいかに日本の拉致問題の解決の努力にかかわってきたかということの総括です(拍手)。
◆「拉致は現在進行形のテロ」とアメリカに訴え
西岡 今名前があがった方々は、我々が訪米した時にみんなお会いした方々ばかりで、色んなことを思い出しながら伺いました。これから、私と島田副会長がご質問をさせていただきながら、トークをさせていただきたいと思います。
まず、2001年の訪米の時の話を少しさせていただきます。この訪米はテロ支援国家問題とも関係があるんですが、冒頭古森さんがおっしゃったように、2001年の2月から3月にかけて初めて家族会・救う会が訪米しました。
当時我々は、大変追い込まれていまして、ほとんど出口がないという感覚を持っていました。97年から運動を始めましたが、世論は少し動いていましたが、マスコミは『産経新聞』以外は拉致疑惑としか書かなかったですし、外務省も「たった10人くらいのことで」と公言する人たちもいましたし、その前の2000年には、65万トンのコメ支援が河野外務大臣のもとで行われて、我々は自民党の前や外務省の前で座り込みをしましたが、「自分の責任でやるんだ」と大臣が言って、そしてコメ支援が行われた後北朝鮮は、「行方不明者調査」といって、それをやったが誰もいなかったと発表した。
そういう時、韓国との連携は一部あったんですが、アメリカに行こうと、誰が言い出したのかは忘れましたが、そういう話が出まして、当初何人かで行こうかということでしたが、家族の人たちが、先ほど名前があがった、横田さんご夫妻、有本さん、蓮池さん、地村さん、浜本さんとみなさん行かれるということでした。
当時活動していた人のほぼ全員でした。当時は親の世代が活動していました。それじゃあ私も島田さんも行こうと、そして荒木さん、福井さん。全力を尽くしてアメリカでやってみようじゃないかということでした。
私は日程のことをあまり担当しておらず、声明を書いたりしていましたが、どういう論理でアメリカに訴えようかとずっと考えていたんです。今申し上げたように、日本が情けないからアメリカに来ましたとは口が裂けても言えない。またそういうことをアメリカ人に言っても説得力がないだろうと思ったんです。
その時、前年の荒木さんの訪米のこともあったんだと思いますが、ワシントン支局の小森さんは、ラリー・ニクシュさんという、先ほど名前が出た議会調査局の調査官の人が、「テロ支援国指定を解除するかどうかが今問題になっている」という報告書を出したんです。
2000年というのは大変な年で、金大中の平壌訪問がありました。金大中は平壌に言って金正日に、「日本から金をもらえばいいじゃないか」と勧めました。また、「アジア開発銀行から融資を取ってきてやるよ」と言ったんです。
しかし、アジア開発銀行から融資を取ろうとしても、アメリカがテロ支援国指定をしていれば、自動的にアメリカ政府は理事会に入っていて、反対すると取れないんです。
ちょうどあの頃は、『朝日新聞』が、「よど号のハイジャック犯を北朝鮮が海外に出す」という記事を書いた。表向きは、当時はテロ支援国指定の理由は、よど号のハイジャック犯をかくまっているということでした。テロリストをかくまっていると。
金大中と金正日が裏で組んで、ちょうどそれを出すと言ってきた。テロ支援国指定解除をして、日本やアジア開発銀行から金を取るというプロセスをやっているのか。森総理が国連で、金永南(キム・ヨンナム)という北のナンバー2と会う秘密交渉を進めていたというのも同じ時期です。これは『週刊文春』暴露した。
色んなことが進んでいて、それをどうすればいいのかと思っていたんですが、その時、ニクシュさんが書いた報告の中に、「韓国人に対するテロは、金大中政権が、『これは民族内部の問題だからアメリカが関与してくれるな』と言っているから理由にならない」と書いてありました。
そして残るのはハイジャッカーのことでした。でもハイジャッカーは外に出すということができる。ニクシュさんはその時、「日本人拉致がある。テロ支援国家指定解除の条件は過去半年テロをしていないのが条件だが、日本人拉致を現在進行形のテロと見なせば今も行われていることになるから解除できないことにな
る。どちらに見なすか今議論がされている」と。
そして先ほど古森さんがおっしゃった、「イランでの52人の人質問題は現在進行形だと見なして対応してきた」と書いてあるんです。これを読んで、「これだ!」と思ったんです。「拉致はテロだ!」、「テロは国際社会の敵だ。アメリカも一緒に戦ってください」という論理を作って2001年に行ったんです。声明の中にそういうことを書いた記憶があります。
ただその時はアメリカでも、ハバードさん(国務次官補代行)なんかにも、「拉致はテロだ。だからテロ支援国家指定の理由に拉致を明文化してください」と言ったんですが、その時は、「拉致問題をうちも出します」とは言ってくれましたが、その部分については明確な返答がなかったんです。
北朝鮮はテロ支援国家指定を解除してもらいたいと思っている。アメリカは拉致を理由にするかどうかまだ分からない。明文化されていない。これは使えると。彼らが嫌がることと拉致解決をリンクさせれば、拉致のことに関心を持たざるをえない。実際に彼らの所にお金が行くのを拉致で防ぐことができる、という戦略を立てたんです
これは政治家が立てたんじゃなく、外務省が立てたんじゃなく、我々民間が、島田さんとも相談しながら立てたんです。そして2003年に、もう一度訪米しました。実はその時、先乗りで島田さんと福井さんに行ってもらったんです。
たまたま島田さんがテレビを見ていたら、アーミテージ国務副長官が国会の公聴会に出てきて、「テロ国家指定をしている理由は、ハイジャッカーのことだけじゃなくて、日本人拉致被害者の悲劇的な境遇も含まれている」と明言したんです。
でもそのことを日本のメディアはどこも報道しなかった。ワシントンの大使館に問い合わせしても、「知らない」という。島田さんだけが見ていたんです。それでアーミテージさんに会った時に、そのことをもう1回確認したら、「その通りだ。拉致が理由だ」と言ってくれたんです。
しかし、国務省が出したテロリズム・レポート2003年版には、日本のところに拉致は書きこまれなかった。おかしいじゃないかと色々言ったら、2004年版に入ったというようなことがあったんです。
まさにそのプロセスの過程でも、ニクシュさんのペーパーに助けてもらって、それを送ってもらったのが古森さんです。そして情勢が追い込まれた中で、あの時ブッシュ政権が誕生していなくて、ゴア政権だったら我々がそんな話ができる情勢ではなかったと思います。
そういうこともあって、やっと俵に足が引っかかって、少し頑張ることができたという感覚を持っています。
(4につづく)
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