ロシア、ステルス機の極東配備で戦力バランスに影響
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130711/plt1307110729001-n1.htm
ロシアは近く、フランスから2隻の強襲揚陸艦「ミストラル」を購入して極東地域に配備する。北方領土には、射程300キロの対艦巡航ミサイル「ヤホント」のほか、新型対空ミサイル「トールM2」などを配備する計画だという。
ここ数年のロシアの軍事費の伸び率は前年度比2ケタ、2009年度は前年度比38%というから驚異的な伸び率である。核弾道ミサイルを搭載する新型原子力潜水艦を開発し、10年にはステルス戦闘機「PAK-FA(パクファ)」を初飛行させるなど、着実に近代化を進めている。
冷戦終結後、消滅したかに思われた“北の脅威”は、いま再び息を吹き返しつつあるのだ。
日本にとって直接脅威となる「極東ロシア軍」の陸軍兵力は約9万人(15個師団・旅団)。北方領土に1個師団、樺太に1個師団、カムチャツカ半島に1個師団、残りは中国と国境を接する極東軍管区に集中配置されている。なかでも北方領土の国後島、択捉島に展開するロシア陸軍「第18機関銃・砲兵師団」の装備は、旧式戦車や榴弾砲を中心とした部隊だが、これらも逐次近代化が行われてゆくだろう。
海軍力だが、日本海に面したウラジオストクやカムチャツカ半島のペトロパブロフスクには、ロシア太平洋艦隊の主要基地があり、駆逐艦など水上艦艇約20隻と潜水艦約20隻(うち約15隻が原子力潜水艦)を主力とする艦艇約240隻が配備されている。さらに、核戦略の一環として原子力潜水艦戦力の拡充を行っている。
空軍力はどうか。ステルス戦闘機「PAK-FA」が近く実戦配備される予定だが、これが極東地域に配備されれば、極東の戦力バランスに大きな影響を与える。
現在、ロシア軍は、1944機の作戦用航空機を保有しており、北方領土を含む極東地域には、スホーイ27やミグ31など210機の戦闘機の他、核攻撃も可能なTu22Mバックファイアを含む50機の爆撃機を配置している。
忘れてはならないのが、ロシアが依然、核超大国であるということだ。もちろん日本に照準を向けられた核弾道ミサイルも存在する。
だが、歴史的遺恨を抱き、にらみ合いを続けてきた日露両国が歴史的歩み寄りを始めた。
今年5月、安倍晋三首相とプーチン大統領による日露首脳会談の成果は、北方領土返還交渉の再開だけではない。最も注目すべきは、日露間で「2プラス2」(外相・防衛相会談)を設置しようという動きである。これは、日本とロシアが“準同盟国”へと移行する素地となるからだ。
■井上和彦(いのうえ・かずひこ)
軍事ジャーナリスト。1963年、滋賀県生まれ。法政大学卒。軍事・安全保障・外交問題などをテーマに、テレビ番組のキャスターやコメンテーターを務める。航空自衛隊幹部学校講師、東北大学大学院・非常勤講師。著書に「国防の真実-こんなに強い自衛隊」(双葉社)、「東日本大震災秘録-自衛隊かく闘えり」(同)、「尖閣武力衝突-日中もし戦わば」(飛鳥新社)など。