参院選と拉致
憲法改正や経済再生が大きな争点とされる今回の参院選で、拉致問題解決を求める声が候補者からほとんど聞こえてこないのが気がかりだ。拉致は、日本人の生命と日本の国家主権にかかわる重要課題である。各党、各候補はもっと真剣に論じ合ってほしい。
自民党の安倍晋三政権が誕生して半年余、膠着(こうちゃく)状態だった拉致問題が解決に向けて少しずつ動き出す気配を見せている。
3月、国連人権理事会は、拉致問題を含む北朝鮮の人権侵害の実態を調べる調査委員会を設置する決議を、全会一致で採択した。5月には、飯島勲内閣官房参与が訪朝し、拉致被害者の即時帰国や実行犯の引き渡しなど、安倍政権の基本方針を北朝鮮に伝えた。
一方、拉致問題の早期解決を求める署名数が4月下旬、1千万人を突破した。横田めぐみさんの両親ら被害者家族が16年間、全国各地を奔走した結果である。
しかし、参院選の各党公約を見ると、自民党以外は拉致問題にあまり触れていない。
自民党は公約で「対話と圧力」による「拉致問題の完全解決」をうたい、総合政策集でも、政府認定以外の特定失踪者の調査や北朝鮮への全面的な再調査要求などの具体策を掲げた。
これに対し、最大野党の民主党は「主権と人権の重大な侵害である拉致問題の解決に全力をあげます」と書いてあるだけだ。
他の政党も「6カ国協議を再開し、拉致、核、ミサイル問題の包括的な解決」(公明党)、「北朝鮮の核やミサイル問題、拉致問題には毅然(きぜん)と対応」(みんなの党)など、民主党と大同小異だ。
日本維新の会は、党内に拉致議連会長や元拉致問題担当相がいるのに、参院選公約に拉致問題への言及が全くない。維新は昨年暮れの衆院選でも、公約に「拉致」の文言がなく、理解に苦しむ。
安倍首相は先月、英国で開かれた主要8カ国(G8)首脳会議や東欧4カ国(V4)首脳との会談で、拉致問題解決を訴え、首脳宣言などに「拉致問題」が明記された。先の党首討論でも、安倍氏は「あらゆるチャンスを貪欲につかんでいきたい」と述べた。
拉致は、安倍政権に任せておけばよいという問題ではない。野党を含めた超党派で知恵を出し合い、力を合わせなければならない国家的課題なのである。