やっかいな米株のドル札発行“依存症”
http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20130607/ecn1306070710000-n1.htm
日経平均株価が不安定なままだ。アベノミクスへの期待が先行していた株高の限界、という見方がメディアに多いが、筆者は国内よりも米国要因を重視する。
グラフを見ていただこう。2008年9月のリーマン・ショック直前からこの5月末までの各月の米国のマネタリーベース(MB、中央銀行によるマネー発行量)残高と、米国の代表的な株価指数「S&P500」の推移を追っている。すると一目瞭然、米株価はFRB(米連邦準備制度理事会)がカネを大量かつ継続的に刷る量的緩和(QE)政策とほぼ連動して上昇してきたのだ。
QEは住宅抵当証券や国債などの資産を買い入れ、資金を金融機関に流し込むやり方をとり、第1弾(QE1、09年3月から10年3月まで)、第2弾(QE2、10年11月から11年6月)、そして昨年9月13日に始まった現在の第3弾(QE3)に分かれる。QEの中断期、またはMBが伸びていない時期には株価が下落しがちで、QEが再開されるか、MBが増え出すと株価は再上昇している。
一般的には、株価は実体景気動向や企業収益に連動すると解釈されるが、リーマン後の米株価はFRBによるドル資金供給量によって変動する。最近の米株価は「金融相場」、あるいは「QE相場」なのである。FRBによるドル供給という輸血が細ると、たちまち株式市場というボディーは元気をなくしてしまう。
現に、ロイター電によると、米国時間5月22日にFRBのバーナンキ議長が議会証言で「労働市場の見通しが実質的かつ持続的に改善すれば、FOMC(連邦公開市場委員会=FRBの政策決定機関)は資産買い入れペースを緩やかに縮小していく」と述べた途端、米国株は下落し始め、日本を巻き込んできた。
奇妙である。FRBがQEをやめるか縮小するというのは、雇用情勢など実体景気の好転である。すでに住宅市場は底を打ち、株価上昇や「シェール・オイルおよびガス」の開発ブームを受けて民間設備投資も回復基調にある。失業率まで改善すれば、景気回復はいよいよ本物というわけで、株価はおのずと上昇軌道に乗るはずだ。
ところが、ドル札の発行ばかりにマーケットが反応する。株式市場という身体は健康体になって輸血はもはや不要になったにもかかわらず、依然として輸血を欲しがるというのであろうか。
日本にとってやっかいなのは、米株式市場の不安がたちまち日本株に伝染することだが、あわてる必要はない。米国の実体景気がしっかりとした足取りで拡大していくことが確実になれば、QE相場は実体景気相場へと転換するだろう。
逆に、雇用情勢の改善がはかばかしくなければ、バーナンキ議長はQE3を継続するか、拡大すると明言しているから、米株価は安定する可能性が高い。日本としては、国内要因でみずからの株価を形成していけるよう、アベノミクスを粛々として実行すればよいだけだ。
(産経新聞特別記者・田村秀男)