「日本」の解き方 増税に固執する財務省理論。
金融緩和で経済成長が財政再建の近道。
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130526/dms1305260709001-n1.htm
財務相の諮問機関である財政制度等審議会が月内にまとめる報告書の原案について各メディアが報じている。いわゆるリークである。長期金利の上昇を警戒し、財政再建や消費税増税のスケジュール通りの実行を訴える内容となっているようだ。
財政再建の取り組みが不十分な場合には、市場の信認を失って金利急騰を招くので増税が必要というのが、財務省の基本ロジックである。
これについて検証しよう。まず財政再建は、債務残高対GDP(国内総生産)比が将来において発散(比率が継続的に上昇)しないことと考えていい。この条件は数学的に厳密に記述できるが、おおざっぱに言えば、基礎的財政収支については、成長率が(国債)金利より高ければ多少の赤でもよく、成長率と金利が等しければ均衡していることを示し、成長率が金利より低ければ一定の黒字が必要になる。
そこで、成長率と金利の関係であるが、理論的にどちらが大きいとはいえない。2000年以降のOECD(経済協力開発機構)35カ国のデータを見ると、平均はほぼゼロであり、プラスでもマイナスでもほとんどがゼロの近辺になっている。要するに、データから見れば成長率と金利が等しいと考えてよい。であれば、財政再建のためには基礎的財政収支を均衡させればいい。
ここでのポイントは、基礎的財政収支には利払は含まれていないこと。まだ財政破綻せずに、これから財政再建しようとするときには、金利を気にせずに、基礎的な財政収支の均衡を図ればいい。
そこで、財務省は増税が必要との立場だ。しかし、増税が基礎的財政収支の改善になるか、はなはだ疑わしい。実は、バブル後の1991年からのデータを見ると、基礎的財政収支対GDP比は1年前の名目GDP成長率でほとんど決まってくる。ちなみに両者の相関係数は0・92(1が最大)と高い。1年のズレがあることから、因果関係と考えていいだろう。
ところが、増税は明らかに経済成長にはマイナスである。消費税率3%の増税で経済成長率は1%程度低下する。消費税は増収になるかもしれないが、所得税や法人税が減少するのだ。その結果、税全体で増収になるのか減収になるのかわからない。
他方、金融緩和は名目GDPを伸ばす。2年前のマネーストック増加率は名目GDP成長率と強い相関がある。ということは、金融緩和すると2年後の名目GDPは高まるのだ。この実証データは、2年間金融緩和して、その間に増税を行わないほうが、名目GDPを伸ばし、結果として財政再建の近道になることを示している。
イギリスでは2011年から財政再建のために消費税を増税したが、景気は低迷している。世界的に緊縮財政が見直されているが、日本の財務省だけは増税に固執している。日銀がまともな金融政策をして世界から評価されたが、今度は財務省の番だ。急がば回れ、財政再建のためには増税ではなく経済成長が先だ。そうすれば、財政再建は後からついてくる。
(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)