【国防最前線】
航空宇宙の聖地でブルーインパルスが飛ばない。
反対する平和団体。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130509/plt1305090708002-n1.htm
松島基地に帰還し、訓練を行うブルーインパルス=宮城県東松島市
東日本大震災で大きな被害に遭った航空自衛隊松島基地に所属するブルーインパルスが、疎開先の福岡県・芦屋基地から約2年半ぶりに戻り、東北の空に舞い上がった。
震災の日は九州にいて被災を免れたが、ブルーの隊員たちはすぐに松島基地に帰り、被災者の支援などにあたった。
「普段、操縦桿(かん)を握る手が、あかぎれだらけになっていました」
極寒の中、慣れない給水作業を行う同基地隊員たちの姿を見た指揮官は、たまらない気持ちになったという。ヘリや戦闘機で活躍するだけではない、自衛隊の底力を誰もが再認識した経験だった。これは対外的にも大きなインパクトになったはずだ。
あれから2年余り、ブルーインパルスが未曾有の震災を乗り越え練度を維持していることを見せるのは抑止力向上にも繋がるだろう。何より、地元の人々の気持ちを盛り上げる効果は大きい。6月には復興支援のため福島市の空を舞う予定で、市民は心待ちにしているようだ。
航空祭を開催することによる効果は、国防上の意義、地域の活性化といった効果だけではない。
「病床の少女から手紙をもらったんです」
何年か前、そんな話を聞いた。病気がちな女の子が、窓越しに見たブルーの飛行に「勇気をもらった」と記されていたという。こうした見えない部分でも影響を与えているとすれば、意義はもっと大きい。
そんなブルーインパルスの存在であるが、どこにでも受け入れられているわけではない。
愛知県の航空自衛隊小牧基地では、一度もブルーインパルスが飛んだことがないという。愛知といえば、航空宇宙産業が集中していることでも知られ、これをさらに成長させるべく、2011年に「アジアNo・1航空宇宙産業クラスター形成特区」の1つに指定されたほどの「航空宇宙の聖地」である。宇宙に最も近い中京地域にして意外な事実だ。
反対しているのは県内の平和団体などで、昨年、飛行計画が持ち上がった際、「事故が起きれば大惨事につながりかねない。地元のほとんどの人が展示飛行に反対している」として、危険な飛行はやめてほしいと訴えた。
一方で「ぜひ飛んでほしい」と願う人々は署名運動まで行ったが、結局、実施はまたもかなわなかったという。
自衛隊に対する理解は高まったといわれ、「人殺しの道具でしょ!」などと言い放つドラマのセリフは、昔話のようにも思えたが、まだまだそうでもないようだ。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。