発端はマスコミの誤報。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【日曜に書く】

論説委員・石川水穂 教科書歪めた近隣諸国条項





発端はマスコミの誤報


 安倍晋三首相が衆院予算委員会で、教科書検定制度の見直しに言及した。下村博文文部科学相も「現状と課題を整理し、見直しを検討する」と述べた。

 自民党は昨年暮れの衆院選公約で、検定基準の抜本改善と近隣諸国条項の見直しを掲げた。これを視野に入れた両氏の発言とみられる。

 近隣諸国条項は31年前の昭和57年、検定基準に加えられた。

 発端は、マスコミの誤報だった。

 その年、旧文部省の検定により、日本の中国「侵略」が「進出」に書き換えられたと日本のマスコミが一斉に報じ、中国と韓国がこの報道をもとに日本政府に抗議してきた。だが、そのような書き換えはなかった。

 にもかかわらず、当時の宮沢喜一官房長官は「検定基準を改め、近隣諸国との友好・親善に配慮する」との談話を発表し、それに基づいて作成されたのが近隣諸国条項である。

 文科省は「検定でこの条項が使われたのは1件だけだ」と説明する。それは次の例だ。

 平成3年度の中学教科書検定で、「過去に迷惑をかけた歴史を忘れてはならない」との記述に、「配慮がなされているとは言いがたい」と意見が付いた。「迷惑をかけた」が「耐え難い苦しみをもたらした」という表現に変わった。


中韓への過度の配慮


 検定で近隣諸国条項が使われなくても、それが教科書に与えた影響は計り知れない。

 この条項が初めて適用された昭和57年度検定の結果について、58年7月29日付「文部広報」はこう書いている。

 「『侵略』という用語は、表記・表現からみて不適切な場合を除き、意見を付さなかった」

 「(朝鮮半島での)土地調査事業、神社参拝、日本語使用、創氏改名及び強制連行については、表記・表現からみて不適切な場合を除き、意見を付さなかった」

 要するに、「侵略」「強制」といった表記には原則、検定意見を付けないという趣旨だ。

 南京事件などの犠牲者数については、出所・出典を示せば、それが不確かであっても、検定をパスした。この結果、中国が主張する「30万」、東京裁判で認定された「20万」といった誇大な犠牲者数が教科書で独り歩きするようになった。

 根拠なしに慰安婦の「強制連行」を認めた河野洋平官房長官談話が出された平成5年以降、慰安婦が強制連行されたとする誤った記述が増えた。

 その後、自虐教科書からの脱却を目指す「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらによる教科書が登場した効果で、極端な記述が少しは改められたが、まだ不十分である。

先月末に発表された高校教科書の検定では、「日本軍に連行され、『軍』慰安婦にされる者もいた」という申請図書の記述に検定意見が付かなかった。

 「軍慰安婦」という言葉はなく、日本軍に連行された事実もない。近隣諸国条項が中韓両国への配慮を求めるあまり、記述のバランスを取り戻す検定本来の機能を損ねているのだ。

 安倍政権は、教科書の記述を歪(ゆが)めてきた近隣諸国条項の見直しを急いでほしい。


産経以外は弁明か無視


 マスコミ各社の誤報の責任の取り方もあいまいなままだ。

 57年当時、産経は9月7日付で「読者に深くおわびします」という7段の謝罪記事を掲載し、文部省記者クラブに所属する各社記者が取材を分担し、その結果を持ち寄る慣行が一斉誤報につながった経緯も、詳しく書いた。

 朝日は9月19日付「読者と朝日新聞」という社会部長名の囲み記事で、「『侵略』→『進出』今回はなし」「問題は文部省の検定姿勢に」と報じた。

 毎日は9月10日付「デスクの目」で、「不十分な点は続報で補充しており、一連の報道には確信を持っている」と書いた。

朝日も毎日も謝罪より弁明に近い記事だった。他の多くのマスコミは誤報に頬かむりした。

 先月の検定結果の発表では、次の明白な誤りに検定意見を付けたことも報告された。

 「1982年には、教科書検定で『侵略』を『進出』と改めさせようとしたため、中国・韓国から抗議を受けた」

 いまだに、「侵略」→「進出」の書き換えがあったと思い込んでいる教科書執筆者がいることに驚かされる。歴史教科書問題で、最も反省しなければならないのはマスコミ自身ではないか。

(いしかわ みずほ)