■安保理決議に「拉致」を盛り込むべく一段の努力を
北朝鮮に対する追加制裁を盛り込んだ国連安保理決議2094号が、3月8日（ニューヨーク時間7日）全会一致で採択された。
この決議が真摯に実施され、拉致問題解決を促す圧力ともなるよう、日本政府は、アメリカ始め各国と協力し、違反行為の取り締まりや違反国への制裁を強めねばならない。特に中国が、これまでのように北朝鮮に抜け穴を提供することがないよう適切に対処する必要がある。
なお、今回の決議でも、前文に「北朝鮮が、国際社会が抱く他の安全保障上および人道上の懸念にえることの重要性を今一度強調する」（Underlining once again the importance that the DPRK respond to other security and humanitarian concerns of the international community.）という文言は入ったものの、日本政府が求めてきたはずの「拉致を含む人道上の懸念」という表現にはならなかった。
この点については従来、拉致は日朝二国間の問題であり、国際決議にはなじまないとする中国の反対に屈してきた経緯がある。
しかし、拉致は日朝二国間の問題ではなく、少なくとも13カ国から拉致被害ないし疑惑が報告されており、中国人の拉致被害者もいる。その内、1978年に拉致されたホン・レンインさんは、大韓航空機爆破事件の実行犯金賢姫の中国語教育係だったことが確認されている。
中国政府は、自国民の拉致を放置するばかりか、国際テロに協力させられていた事実にも目をふさいでいるというのが実状である。
今回もやはり中国の反対で「拉致を含む」という文言が入らなかったとすれば、言語道断であり、その点、日本政府に情報開示を求めたい。
さらに安倍政権には、中国人の拉致被害者もいるという事実を国際的に周知すべく、積極的努力を求めたい。
なお、安保理制裁決議に拉致が盛り込まれた前例はある。
イラク（サダム・フセイン政権）に対する国連安保理決議1441号（2002年11月8日
）は、湾岸戦争中のクウェート人拉致を取り上げ次のように述べている。
安保理は、イラク政府が、イラクによって不当に拘禁されたクウェート人や
第三国国民を、送還あるいは消息確定に向け協力すべきとした（累次の）国
連決議をないがしろにしてきたことを遺憾とする。
さらに同決議は、大量破壊兵器の査察に関し、次のように規定している。
安保理は、以下のように決定する。イラクは、国連監視検証査察委員会
(UNMOVIC)と国際原子力機関(IAEA)に対し、すべてのイラク当局者その他に対
する即時の、妨害のない、無制限の、そして内々に行われるアクセスを許さ
ねばならない。……さらに、UNMOVICとIAEAは、聴取を受けるイラク人が、
家族ともどもイラク国外に出られ、かつ、これら機関のみの判断に基づき、
イラク政府当局者の同席なしに聴取を受けられるよう取り計らえるものとす
る。
この規定は、当然「拉致被害者査察」にも準用さるべきものであろう。イラクに対する安保理決議1441号には中国も賛成し、全会一致で成立した。北朝鮮に関する決議にも、この前例に倣った規定が盛り込まれるよう、日本政府の努力を強く促したい。
（島田洋一）
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