火砲にも予算削減の波。
99式自走155ミリりゅう弾砲
ドイツ陸軍が使用するガイダンスには、砲兵は戦場における「戦いと打撃の女神である」と記されているという。
日本人の感覚では、大砲が女神だというのはピンとこないかもしれないが、戦いの場においては圧倒的な打撃力を持つ火力はまさに守護神だ。それがなければ、上陸して来る敵に対し無力であり、兵士を見殺しにするようなものだからだ。
NHKで放送された「坂の上の雲」で、日露戦争で28サンチりゅう弾砲がロシア兵に強力なインパクトを与えたシーンがあったことからもよく分かるが、古い話だけではない。
2008年、フランス軍はアフガニスタンでタリバンの待ち伏せ攻撃により30人を超える死傷者を出した。このため、アフガンへのりゅう弾砲の配備増強を決定した。この伏撃でフランス軍は当初、航空攻撃による反撃を試みるも、双方の距離が近すぎたため効果が出ず、歩兵と火砲が連携する重要性が見直されたという。
また、10年に起きた北朝鮮による韓国延坪島への砲撃では、K9自走りゅう弾砲が反撃したことは記憶に新しい。軍事力の近代化を進める韓国においても戦車・火砲をなくすなどということは決してしない。
いくら核やミサイルを持っていても、最終的に陸上戦闘になったときを想定すれば、地域制圧能力に優れ、侵入した敵を一挙に鎮圧できる兵器は必要なのだ。
しかし、わが国の防衛予算削減の波は火力を攻め続けている…。
「『追いかけるだけの自衛隊』になるしかないね」
自嘲気味に言う隊員もいる。専守防衛ゆえ外征的な軍備は持てないと抑制しながら、上陸侵攻勢力の前進を阻む戦力を削ぐという思想は一体、何なのだろう。
では、火砲の必要性はある程度認めても、国産ではなく輸入品の方が性能も良く低価格だという見解がある。これについては「国内運用」を前提とした自衛隊装備には日本の(特殊な)国土・国情に適合する必要があることや、20年という長期運用のため、輸入だとメンテナンスが困難であるなど、他の装備品同様の事情がある。
防衛省の今年度予算には、FH70・155ミリりゅう弾砲の後継となる装輪155ミリりゅう弾砲の開発費が計上された。要求額は64億円でかなり減額されたが、昨年は見送られたことを考えれば明るいニュースだ。
既存の自走砲や車両を活用するため、大幅なコスト削減が図られている。価格や重量などで海外製品に優位性があるのではという見方もあるが、整備基盤などすでに確立されているシステム活用が長い目で見れば効率的な選択といえるだろう。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。