次期日銀総裁の条件。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【日曜経済講座】

編集委員・田村秀男 次期日銀総裁の条件を考える。





日銀流理論の牙城の変革を


 安倍晋三内閣による日銀総裁人事が大詰めを迎えている。次期総裁には大胆な金融政策の英知と、円高・デフレ容認の日銀流理論の牙城を変革する指導力の双方が求められる。

 アベノミクス効果で、超円高是正は急速に進んでいる。円が売られ、株が買われる。円安は自動車や家電など輸出企業の収益を高め、株価の上昇基調は個人消費意欲を刺激し、新興企業の資金調達を楽にして国内向け投資を活発化させる動因になる。さらに、円安による物価押し上げ効果も付け加わる。従って、円安が脱デフレの特効薬であるのは間違いないだろうが、ことは容易ではない。


物価上昇率0が基準


 さっそくグラフを見てみよう。デフレが始まった1998年以降の円相場をみると99年12月からの2001年前半と、04年11月から07年初めまで2度の円安局面があった。いずれも日銀の金融緩和政策が大きく影響し、最初の局面は日銀によるゼロ金利政策の結果、米国との短期金利差が拡大し、円の対ドル相場は102円台から133円台に下がった。2度目は日銀のゼロ金利と量的緩和政策に加えて、ブッシュ政権(当時)による日本政府の円売り介入容認などが円安を促進し、103円台から123円台まで下がった。ところが、国際標準のインフレ指数であるエネルギーと食料品を除くコアコアCPI(消費者物価指数)は下がり続けた。2年前後の間、円安が続いても、脱デフレを果たせなかった。日本経済はデフレというアリ地獄にはまったかのようである。

重視すべきは、これまでの15年間のデフレ期間のうち11年間は円高局面という点と、物価上昇率が前年比でプラスになった月は指で数えられるほどしかない点である。それを支えてきたのは日銀生え抜きの総裁(1998年4月施行の現行日銀法体制では速水優、福井俊彦と白川方明の3氏)が墨守してきた日銀流理論だ。

 日銀は伝統的に「物価上昇率ゼロ」を政策判断の基準とし、ゼロ以上に上がれば金融引き締めに前のめりになり、ゼロ以下であれば現状維持という路線である。1度目のゼロ金利は米国の情報技術(IT)バブルの波及を恐れた速水総裁が解除した。2006年3月には、物価が前年比でゼロ・コンマ台での上昇率が3カ月間続いたと誤認して、福井総裁が量的緩和を打ち切り、続いてゼロ金利解除など引き締めに転じ、円高を誘引した。08年9月のリーマン・ショック後は米連邦準備制度理事会(FRB)による大規模な量的緩和と実質金利をマイナスにする政策のあおりで、円高に拍車がかかり、日本のデフレに加速がかかった。日銀生え抜きの山口広秀副総裁は昨年の超円高の最中でも、「金融政策を用いて直接的に為替相場に影響を与えることは一切考えていない」と発言する始末だ。


円高・デフレで疲弊


 ゼロ以下の物価上昇率と円高の容認、放置の遺伝子こそがデフレ下の円高を高進させ、2年間程度の円安局面による物価押し上げ効果を打ち消したのだ。今回の円高是正局面はまだ3カ月間程度で、これから何年もの間を浪費するわけにはいかない。円高・デフレによって疲弊した日本では若者の就労の機会が奪われ、国内産業の土台とも言うべき中小企業は虎の子の技術を韓国企業に身売りせざるをえない。アジアでは増長する中国に押され、安全保障上の危機につながっている。

 次期日銀総裁の使命は明らかだ。政策面では安倍首相が求める「大胆な政策転換」に尽きるが、金融の量の面ではこれまでの日銀の小出し緩和策は効果ゼロどころかデフレを助長した。従来手法の見直しが必要だ。日銀による外債購入は、資産の多様化による量的緩和と円安促進という両面で有効に違いない。財務省は外為市場介入になると強く反対しているが、これまで外国為替特別会計を根拠に国民の貯蓄を吸い上げて円売り介入し、米国債を購入してきた同省が批判する資格はない。


日銀資金で米国債を


 日銀にも外債保有のオプションを付与し、国内投資に回すべき国民貯蓄ではなく、日銀資金で米国債などを買えるようにすればよい。中央銀行の外債保有自体はどの国でも普通で、「通貨安誘導」には当たらない。金利面でも、日銀は金融機関の日銀当座預金の超過準備に0・1%の金利を提供し、金利が0・1%以下に下がりにくくして、実質金利を高めに維持している。なのに「実質ゼロ金利」を標榜(ひょうぼう)している。新日銀総裁は政策金利を一挙にマイナス以下に誘導すべきだ。

 日銀がこれまでの別次元の政策に踏み出せば、デフレの巨大な壁を突破する道が初めて開ける。新総裁の剛腕で日銀理論の創造的破壊が欠かせないのだ。