このところまた続いている防衛装備品の「過大請求」事案、これは一体どういう問題なのだろうか。これまでも同様の事案が多発してきたが、センセーショナルに報じられると後は忘れられ、根本的な問題解決に至ることはなかった。
しかし、最近の防衛省は違う。昨年末に出された三菱電機過大請求事案についての報告書を見ると、企業がなぜそんなことをしなければならなかったか、その理由が見えてくる。そして、防衛省側の見直すべき点も分かる。
まず、現行の「原価監査付き」という契約方式に問題がありそうだ。流通品とは違って適正な価格が分からないために用いられているやり方で、材料費や人件費などかかった経費の見積もり額に決められた利益(ちなみに非常に低く設定されている)を乗せて契約金額を決定するもの。
ただ、当たり前のことだが、作業を進めるうちに予定した金額を超えてしまうことがある。これに対し防衛省がフォローすることはなく企業が背負うシステムだ。また、もし企業努力で予定よりも経費が下回った場合、「コスト削減の成功分はお返しします」と、返納するルールになっていたのだ。
これはあんまりだということで改善策も進められてはいるが、企業にとって十分な取り組みにはなっていない。
とにかく、「水増し」と言われているのは、そうした予定を超えてしまった経費は防衛省が補填(ほてん)してくれないので、他の物の作業数に付け替えることで企業側が調整していたことを指す。それゆえ、企業にとってはそれが「水増し請求」だったという意識がなかったと報告書にもある。
また、報告書では防衛省の行う原価計算についても「必ずしも企業で実際に発生する原価や経費をそのまま反映するものとはしてない」とし、「防衛省が受注者に支払う金額が、実際に履行に要した費用に適正利益を加えた額を下回る契約案件が発生する」とも告白している。
つまり、官と企業の関係が結果的に不公平になっていたということである。そのあたりが謙虚に述べられている点で今回の報告書は画期的だ。それにしても、多くの人は疑問に思うだろう、「なぜ文句を言わないの?」と。それには、次のように明解に答えてくれている。
「防衛部門の現場には、国の防衛のためとの意識もあって、赤字での受注や、履行の結果として赤字となることを容認する空気があったことがうかがわれた。しかし他方で、当然のことながら全社的な立場から見れば、そのような形での損失の受け入れを許容する土壌はなかった…」と。細部は同省HPで確認できる。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。