韓国共産陣営入りも:外交の基本は信頼を得ること。言うべきを言い、なすべきをなせ~田久保忠衛氏
マット安川 外交専門家の田久保忠衛さんを迎え、東アジア諸国との連携や日米同盟のほか、ロシア・中国に対して進められている水面下の安倍外交についてもお聞きしました。
安倍首相は大局観を持って外交を進めている

外交評論家・杏林大学名誉教授。国家基本問題研究所の副理事長として取材・啓蒙活動にあたっている。(撮影:前田せいめい、以下同)
田久保 日本にとって今世紀中の最大の問題は、中国です。日本の13倍の人口を擁した広大な国が、アメリカに次ぐ経済大国、プラス軍事大国になってきている。それだけなら隣の友人で済むけれども、どうも国際法を無視するような行動に出てきた。これに対抗しなければなりません。
その点で、安倍(晋三、首相)さんはよく分かっています。安倍さんは最初の外国訪問先としてアメリカに行く考えでした。日本の今の実力では中国に対抗できないため、民主党が軽んじていたアメリカとの外交をきちっとやろうと。結果的にオバマ大統領の都合で延期になりましたが。
その後、安倍さんをはじめ麻生(太郎、副総理兼財務相)さんや岸田(文雄、外相)さんが、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国やオーストラリアに行きました。これは、日本の味方になるような国々をビシッと固めてから、中国といろんな交渉をしましょうという話なんです。
中国は今いい気になっているけれども、実は四面楚歌の状態です。東西南北で批判の嵐に包まれている。北のロシア、西側は中央アジアやインド、南は南シナ海を巡ってフィリピン、ベトナムと揉めている。
そうした状況下で、アメリカはピボット政策ということで、軸足を再びアジアに置き始めている。安倍さんの今回の外交訪問は、アメリカの波長とピタッと合っています。いわゆる「セキュリティーダイヤモンド構想」で、中国を包み込むように圧迫を加えている。
つまり、安倍さんは大局観を持って動いているということです。日本が21世紀に大きく飛躍するとっかかりができたなと思って私は喜んでいます。
韓国が中国と急接近、共産主義陣営に取り込まれる懸念も

対韓国外交については、安倍さんは韓国を無視しているわけではありません。額賀(福志郎、元財務相)さんが特使として、次期大統領の朴槿恵(パク・クネ)さんへの親書を持って行きました。
日本と韓国が仲たがいするのは、アメリカにとっても困ることです。というのも、アメリカは対中国政策として、5本指のように日本、韓国、フィリピン、タイ、豪州と同盟関係を結んでいるからです。
逆に中国にすれば、日本と韓国が仲たがいするのは、これほどうれしいことはない。だから、あの手この手で朴次期大統領に働きかけています。朴次期大統領も日本よりも先に中国に特使を送った。したがって、韓国と中国が密接に関係を結ぶんじゃないかという危惧はあります。
ここで我われが考えておかなければいけないのは、韓国の歴史において大きな影響力を行使してきたのは、日本よりも中国だということです。ですからヘタをすると、韓国は共産主義陣営に取り込まれてしまうということも大いにあり得ます。
今の韓国には北朝鮮に色目を使う人も出てきている。北朝鮮は中国とベタベタですから。したがって、韓国の人々が民主主義陣営にいるという軸足をしっかり持たないと、たいへん危ないなと私は思います。
外交と軍事力はコインの表裏。憲法を改正し立派な軍隊を持て
今回のアルジェリアの事件もそうですが、結局、日本に軍隊がないことが問題なんです。仮に、邦人救出のために自衛隊を派遣するにしても、今の法律のままでは死人がどんどん出ます。自衛隊を海外に派遣するには、武器の使用について法律を改正しなければなりません。
また、アメリカと同盟を結びながら、例えばアメリカと日本の船が一緒に航行している時に、アメリカの船が攻撃されても日本は何もできない。集団的自衛権の行使ができるように解釈すれば守れる。そういう形で、憲法改正との隙間を完全に埋めて、その上で憲法を改正するというのが私は順序だと思います。
アメリカのセオドア・ルーズベルト大統領の外交政策に関する言葉があります。「Speak softly and carry a big stick」
つまり、でっかい棍棒を片手に、猫なで声で話す。これが本当の外交であると。外交のうまい国を見ると、アメリカでも中国でもロシアでもEU(欧州連合)でも、みんな軍隊を持っている。外交と軍事というのはコインの表と裏です。棍棒を切り離して、猫なで声だけで外交ができるはずがない。
国力とは経済力、軍事力、外交力、技術力、情報力、教育の力などいろいろありますが、この中で戦後一番ダメだったのが軍事力です。だから、これから日本がやるべきは、侵略なんか絶対にできない仕組みにした上で、しかし土足で他人の領土に入ってきて殴ってくるような国には、どいてもらう。そういう立派な軍隊を持つことです。
私が安倍さんを信用しているのは、戦後の政治家の中で、「戦後レジームからの脱却」ということを言ったただ一人の政治家だからです。戦後をすべてご破算にして、新しい日本をつくるんだという見取り図を描いてくれる人がいたら、その人に私はもろ手を挙げて賛成します。私は別に安倍さんと特別の関係があるわけじゃないですが、今のところは安倍さんしかいません。
中国にしろロシアにしろ、外交の基本は、日本人として信頼できるかできないかということだと思います。一時的には中国やロシアが嫌がるようなこと、日本人の言いたいことはどんどん言うし、やる。その代わり、約束はきちっと守る。そうすれば、やっぱりこういう人間と手を結ばなければいけないかなというふうに、中国もロシアも考えるようになると思います。
もちろん、これは中国やロシアだけではなく、アメリカもそのほかの国もみんなそうです。他国にベタベタしてご機嫌をうかがうよりも、日本の利益をまっすぐ主張すべきです。ただし、約束したことは実行する。こういう人間的な信頼感が、国家としての信頼感につながるんです。