今年も「尖閣」めぐり波乱。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【石平のChina Watch】




 2013年の日中関係は、すでに昨年12月22日から動き出している。その日、就任直前の安倍晋三首相は関係改善への意欲を明確に示したのと同時に、そのために中国への特使派遣と、尖閣諸島に公務員を常駐させるとした政権公約の実施を先送りする方針を固めた、と報じられている。

 安倍首相としては、中国との対話の糸口をつかむためにある程度の譲歩も必要だろうが、中国からすればそれは、日本への領空侵犯を断行したことによって得られた「尖閣決戦」の緒戦の勝利であろう。

 もちろんこの程度のことでは中国は満足しない。安倍首相の特使が北京に赴いたとき、中国側からはきっと、「日本政府はまず、領土問題とそれをめぐる両国間の係争を認めよ」との要求を突きつけられるのであろう。本欄がかつて指摘した「習近平のわな」はまさにそれである。

 先月23日のフジテレビの番組出演でも「尖閣はわが国の固有領土だから一切交渉の余地はない」と明言している安倍首相のことだから、中国の要求には当然応じないはずだ。そうすると、「日中関係の改善」の話はこの時点で立ち消えることとなる。

 だが万が一、安倍政権が何らかの形で中国側の要求をのんでしまえば、それは結局、「領土問題は存在しない」という日本側の大原則を放棄することとなる。それこそは日本にとっての「外交の敗北」であろう。

もちろんそれでも、中国側は攻めの手を緩めない。領土問題の存在を日本側に認めさせた上で、今度は次のような「妙案」を安倍政権に押しつけてくるのかもしれない。

 それは、日中両国政府が「領土問題の係争」を確認した上で、尖閣諸島とその付近の海域を今後、両国の施政権がいっさい及ぼさない立ち入り禁止の「空白区域」にすることだ。そうすることによっていわゆる領土問題を再び「凍結」させて棚上げにする、という趣旨の案である。

 一見「穏便」に見えるこのような提案も、尖閣に対する日本側の実効支配を切り崩すための詐術であるにすぎない。明治時代から現在に至るまで、尖閣諸島に対して施政権を実際に行使してきているのは日本の方だから、「施政権の凍結」は直ちに、尖閣諸島に対する日本の実効支配の終焉(しゅうえん)を意味する。

 そして実効支配権を失った領土は実質上、もはや日本の領土であるとはいえない。しかも、「尖閣に安保適用」とする米国政府と議会の立場はまさに「尖閣への日本の施政権」を前提とするものだから、日本による施政権の放棄は結局この前提を覆してしまい、いざというときに米軍が尖閣の防備に駆けつけてくれるという抑止力を失うこととなる。その結果、尖閣はいずれか中国からの軍事攻撃にさらされるのかもしれない。日本は「尖閣決戦」に完敗してしまい、領土と尊厳を失うことになる。

もちろん、国益と主権を守ることを何よりも重んじる安倍政権は決して、中国政府の「詐欺」にはまるようなことはしないと思う。尖閣への実効支配を絶対放棄しないというのは、どんなことがあっても日本政府の守るべき最後の一線である。安倍政権もきっと、この一線から一歩も譲らないはずである。

 そうなると、「日中関係改善」の動きは結局、どこかの時点で行き詰まってしまい、両国間の緊張は再び高まってこよう。そして「尖閣」をめぐっての日中間の攻防はさらに続くのである。2013年は引き続き、「尖閣」をキーワードにした波乱の多い1年となるのではないかと、本欄が見ているのである。





【プロフィル】石平

 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。