【40×40】山田吉彦・東海大教授
沖縄県の尖閣諸島。手前から南小島、北小島、魚釣島
北京の空港に降り立つとすぐに息苦しくなった。どんよりと低く立ち込めた雲と地表の間に、石炭を燃やしたときにでるスモッグが蔓延(まんえん)していた。中国の人々は、こんな空気を吸わされても不満を言わないのだろうか。
中国が尖閣諸島周辺へ侵入し、反日デモ、暴動が起きた後は、北京の街を歩く日本人が減った。日本人相手の飲食店や観光業者は悲鳴を上げている。日本からの投資も減少し、合弁企業も行き詰まった。対日関係の悪化が中国経済に与える影響を懸念する声も出始めている。
あるビジネスマンは、「日本との仕事が止まった。中国政府が騒ぐまでは、中国人は誰も尖閣諸島(釣魚台)のことなど知らなかったのに」とぼやいた。
また、軍関係者のひとりは「南シナ海は力で解決できるが、東シナ海は力では動かない。けんかをするには互いに大国すぎるのだ」と日本との対立を自重する必要を口にした。
中国当局は、東シナ海戦略において、得意の戦略「三戦」を用いた。三戦とは、世論戦、心理戦、法律戦のことだ。まず法律戦は、領海法、海島保護法により尖閣諸島を国家管理地にする国内法を整備、国際的には、国連大陸棚限界委員会に日中中間線を越え沖縄トラフまでを中国の大陸棚として認めるように求めた。
心理戦では、反日運動が功を奏し、日本の経済人は中国経済から日本が排除されることにおびえている。
そして、世論戦だ。中国中央電視台を通じて、中国の主張を世界中に伝えるとともに中国漁船団の映像で東シナ海が中国の海であることを示した。国内では、日本の尖閣諸島国有化に対する抗議運動を大々的に展開した。しかし、今回は世論戦に失敗したようだ。世界中に中国の暴力行為が伝えられ、中国への信頼が失墜した。さらに、国内では反政府運動に足をすくわれ、東シナ海侵攻は後戻りができない。国際社会からの孤立は避けたいが、国内の分裂は回避しなければならない。矛盾を抱えたままの中国の暴走は止まらない。隣国を選べないわが国は、国境海域の管理に手を緩めることが許されないのだ。
(東海大教授)