しなやかに圧力かわす。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【くにのあとさき】東京特派員・湯浅博




金融緩和と公共投資の経済パッケージを、市場が「アベノミクス」と囃(はや)すのは悪くない。1980年代の「レーガノミクス」を彷彿(ほうふつ)させて、経済の閉塞(へいそく)感を打ち破るきっかけにもなる。

 もっとも、レーガン政権時代の82年は、むしろ景気が底を打って反転していたから、大幅減税と規制緩和が可能だった。自民党の安倍晋三総裁が直面するのは、それと正反対に「景気後退の始まり」という厳しい経済環境の下である。

 かつての第1次安倍政権を俯瞰(ふかん)してみると、レーガンばりの「バック・トゥー・ザ・フューチャー」現象が顔をのぞかせていた。マイケル・J・フォックスが主人公の同名の人気SF映画をごらんになった方はご記憶だろう。マイケルが過去にタイムスリップして活躍することから、米国の政治評論家がレーガン政治をそう例えた。未来に向けて過去を復元したり、過去の懸案を処理したりすることを指している。

 第1次安倍政権もまた、わずか1年の内に憲法改正に向けて国民投票法をつくり、懸案の教育基本法を成立させ、防衛庁を省に昇格させた。

実は東京五輪の64年に、当時の佐藤栄作首相がライシャワー駐日大使と会談して、これら重要案件を実行すべき意思を語っていた。この時もきっかけは、中国が核実験を強行したというニュースからだ。佐藤氏が安倍総裁の祖父、岸信介氏の弟であることはいうまでもない。

 米国立公文書館の「首相訪米関係資料」では、佐藤首相が「いまは機がまだ熟していないが、憲法改正が必要だと何度も繰り返した」とライシャワー氏が証言している。さらに防衛庁を省に格上げする問題にも、「まだ時間がかかると認めた」として積み残しへの苦渋が分かる。

 第1次安倍政権が決断した省への格上げには40年以上の歳月を要していた。もはや、「防衛省」の存在に誰も疑問をはさまないだろう。日本国憲法もまた施行から65年をへており、改正のない憲法としては世界最古なのだ。だから、安倍総裁が憲法改正を目指すのも、改正後に自衛隊を「国防軍」へと名実ともに変更することも、自立国家として自然の流れなのである。まして、日米同盟強化につながる集団的自衛権の解釈変更はいうまでもない。「自衛権はあるが行使できない」という珍妙な解釈がなお生きている方がおかしい。

60年代に核実験をした中国が今度は日本の施政権下にある尖閣諸島を奪い取ろうともくろむ。背景にあるのは日本軽視と、リーマン・ショック後の米国衰退に対するおごりだ。このあたりが“成り上がり大国”にありがちな傲慢さと軽率さである。

 尖閣を国有化した日本に必要なのは、領土を守る覚悟と備えだろう。国境が陸続きの欧州のように、隣国の恒常的な圧力のストレスに耐えるだけのことである。

 レーガン政権は国防費を増やして対ソ防衛を固めた。こちら新政権もまた、防衛費のGDP比1%枠をはずし、しずしずと対中防衛を固めればよい。まずは来年1月に訪米して日米同盟の立て直しが急務だ。

 安倍外交は意外にしなやかで現実主義である。韓国、東南アジアの歴訪も中国に対し思わせぶりでよい。フィリピンやベトナムは日本再軍備を望み、インドネシアは「日米同盟は公共財」と公言する。もはや中国が「日本軍国主義の復活」といっても誰が信じよう。