2012年12月18日(火)付 朝日新聞社説。
惨敗民主党―「責任野党」の姿見せよ。
政権を担うということが、いかに難しく、厳しいものか。
総選挙で衝撃的な惨敗を喫した民主党は、そのことを身をもって学んだに違いない。
衆院に小選挙区比例代表並立制が導入されて18年。6度目の総選挙の結果は、想定されていた二大政党制の姿とはほど遠い「自民党一人勝ち」の様相となった。
それでも、野党第1党にふみとどまった民主党の役割はいぜん大きい。
包括的な政策の体系と全国規模の組織をもち、政権がつまずけばいつでも交代する用意がある。そんな野党の存在が、民主主義には欠かせないからだ。
落胆している暇はない。この3年間の教訓をふまえ、民主党はみずからの政策と組織を根本から鍛え直してほしい。
振り返れば、あまりにも未熟だった。
ことあるごとに党内で内紛が起き、分裂を繰り返す。「ムダの排除などで16.8兆円の新規財源を生み出す」などといった無責任なマニフェストがまかり通る。
今回の惨敗は、そうした民主党政権に対する民意の「懲罰」の意味合いが濃い。
一方で、将来世代への責任を果たそうとしたことが、少なくとも二つあった。
消費増税をふくむ社会保障と税の一体改革と、「2030年代の原発ゼロ」である。
09年総選挙で、民主党は「増税の前にやるべきことがある」として消費増税を否定した。
それは、将来世代にツケを回すことにほかならない。それに気付いたからこその増税への転換だったのではないか。
注目したいのは、今回の総選挙のマニフェストに「将来世代の声なき声に耳を傾ける」という理念を新たに掲げたことだ。
来夏の参院選に向け、党をあげてこの理念を具体的な政策の体系にまとめてはどうか。
所属議員は激減した。だがその分、一体感のある議論がしやすくなったとも言える。
有権者の耳に痛い政策を、いかに説得力をもって打ち出すか。政権を担った経験をそこに生かしてほしい。
もう一つ、求めたいのは建設的な「責任野党」の姿を今度こそ見せることだ。
政権が行き過ぎるようなことがあれば、ブレーキ役を果たすのは当然のことだ。同時に、協力すべきは協力する。
やられたらやり返す。そんな不毛な政治の混迷を乗り越えることは、民主党が政権に復帰したときに必ず生きる。
2012年12月18日(火)付 朝日新聞天声人語
「もう一度チャレンジしてみろという、ファンの声を無にできない」。長嶋茂雄さんが巨人軍の監督に復帰したのは20年前である。久々のユニホーム姿にG党は燃えた。
▼新味こそないが経験は生きる。2度目とはそういうものだろう。スター選手からすぐ指揮官に転じ、最下位の屈辱までなめたミスターへの期待もそこにあった。片や5年ぶりに首相を務める安倍晋三氏の身辺に、そうした高ぶりはない。
▼新政権を見る目が熱狂から遠いのは、誰より氏がご存じだ。きのうの記者会見。「自民党への厳しい視線は続く」と語り、谷底からのスタート、危機突破内閣と、険しい言葉を連ねた。失敗は許されない、そんな緊張感がにじむ。
▼小選挙区制の下、民意の振り子は何度でも、時の政権を吹き飛ばすだろう。61%の議席を占めた自民党も、各党の人気を映す比例区の得票率では、大敗した前回とさして変わらぬ27%台にとどまった。ここはおごることなく、経済や外交に当たるのが得策だ。
▼一方、投票率は戦後最低の59.32%に沈んだ。明日の暮らしを脅かす難題に囲まれながら、政治に白けているかのような有権者は気になる。だが、リーダーが妙な熱狂から遠いのは悪いことではない。
▼首相への復帰は、戦後では吉田茂の例があるだけだ。日本の主権回復とも重なる吉田の2度目は、6年を超す長期政権となり、軽武装で復興と成長にひた走る路線が敷かれた。これぞ保守本流である。安倍氏には、そちらもまねしてほしいのだが。
アホが書き、アホが売って、アホが読む、朝日新聞