【主張】拉致と衆院選
原発や消費税が大きな争点とされる今回の衆院選で、拉致問題が埋没しかねない状況だ。拉致被害者の救出が国家の最重要課題であることに変わりはない。各党、各候補はもっと真剣に拉致問題と向き合うべきだ。
少し前までの国政選挙では、ほとんどの主要政党の公約に「拉致」の2文字があった。しかし、今回は公約で拉致問題に触れている政党は少ない。
その中でも、安倍晋三総裁率いる自民党は「対話と圧力」の方針で拉致問題の完全解決を目指すとしたうえで、「制裁強化を行い、北朝鮮に拉致問題の全面的な調査のやり直しを要求」「国連に拉致問題に関する調査委員会を設立」などと具体策も書いている。
政権与党の民主党は公約で「主権と人権の重大な侵害である拉致問題の解決に全力をあげる」としているが、自民党に比べると、具体性に欠ける。
日本維新の会は、拉致議連会長の平沼赳夫氏が国会議員団代表を務めているにもかかわらず、公約に拉致の文言がない。極めて疑問である。
日本未来の党は公約で、「『拉致国家』の汚名を返上するためハーグ条約を早期に批准」とうたう一方で、肝心の拉致問題を書いていない。
米国人男性との結婚が破綻した日本人女性が、子供を日本に連れ帰る問題を指摘したものとみられるが、それと拉致問題は次元が異なる。日本が犯罪国家であるかのような紛らわしい表現だ。
拉致は日本人の生命が危険にさらされ、日本の主権が侵害された北の国家犯罪である。日本という国家はそれを長い間、放置してきた。拉致被害者全員が帰国を果たすまで、国家が背負っていかねばならないのが拉致問題だ。
先月末、拉致被害者の松本京子さんの母、三江さんが最期まで娘の安否を気遣いながら89歳で亡くなった。横田めぐみさんの父、滋さんは先月、80歳になり、欧州留学中に拉致された有本恵子さんの両親はともに80歳を超えている。家族の高齢化が進んでいる。
拉致問題の早期解決を求めて家族会などが集めた署名数は950万人を超え、目標の1千万人達成まであとわずかだ。
残された選挙期間中、各候補は拉致を国家の問題として改めて考え、解決策を論じてほしい。