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「万物に神宿る」国の防衛装備品。


草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 


2012.11.29(木)桜林 美佐:プロフィール





 パワースポット」を求めて各地に出かける人々は相変わらず多いようだ。人気のある神社に行くと人の多さに圧倒されてしまう。

 日本は「万物に神宿る」として「山」や「木」そして人の手によって作り上げられた「物」に対しても敬意と感謝を以て接するといった国であるが、どうもこうした本質的なメンタリティーを見失いつつあるというのが、当世日本人事情ではないだろうか。

 物作りの現場を訪れると、どこか神々しさを感じることがある。職人さんの真剣な眼差しだけではない、長年の思いや完成に対する祈りを吸収した工作機械にさえ神が存在するようだ。

 かつて日本が日米繊維交渉の末、国内の工場を次々に閉鎖しなければならなくなった時、女工さんが一升瓶を持ってきて織機にじゃぶじゃぶとかけ始めたのだという話を聞いたことがある。これはまさに神聖なものに対しての振る舞いと言えるだろう。

 また、多くの企業が「作業にあたる際には家庭の悩みを持ち込まないように」「そのためには家族を大事にするように」などといった標語を掲げているのを見るが、これもやはり煩悩を捨てて作ることに集中するという意識から生まれた日本人独特の考え方ではないだろうか。

防衛装備品の輸出を真剣に検討する時が来ている

とにかく、この日本の製造業が今、厳しい逆風下に置かれている。その原因は為替や原材料費の高騰など様々にあるが、根本は私たち日本人がいつの間にか「物作り」の尊さを忘れ、安い物を「買ってくる」方がお得だと考えるようになったことが大きいように思う。

 このことは、物作りの国ニッポンというアイデンティティーを失うばかりでなく、景気をますます萎縮させるだろう。日本はもっと製造業を活性化させ、世界に出ていくべきなのではないだろうか。

 わけても防衛装備品の製造には、数千社に及ぶ国内企業が関わっている。この分野にも輸出に向け道を開くことを真剣に検討する時が来ている気がする。

しかし、いきなり「さあどうぞ」と言っても、どこも踏み出さないし何の成果もない。かえって企業に多大なリスクを背負わせることにもなる。では、どうしたら日本を元気にするためのこの施策は可能になるのだろうか。

 まず不可欠なのは、国としての強力な後押しだ。

 何でも競争入札制度にしたり、メーカーが他メーカーや国と情報交換しながらより良いものを作ろうとすれば「談合」だと叩いたりするような行為は、救世主たる彼らの足を引っ張るばかりで、何一つ利がないことに国民も早く気付く必要がある。

東南アジアからの引き合いが多い日本の防衛装備品

何もいきなり戦車や大砲を外国に売ろうなどということではない。ニーズのある各種部品や、輸送機などの汎用性の高いものから始めるのだ。スペックの変更や保全の問題で壁は高いが、将来的には艦艇や潜水艦といった装備品についても検討の余地があった方がいい。

 これらの装備については東南アジア諸国からの引き合いが多いと聞く。インドネシアやタイ、ベトナムなどといった中国の海洋進出に備える必要に迫られている国々にとって、日本の高性能な装備品のニーズは高いのだ。

 こうした国々に対し、何らかの形で日本の防衛装備品技術が整備等も含め生かされるようになれば、アジア地域の平和貢献策となるだろう。企業から国が買い取りODAとして供与すれば、外交力の一翼となる。

 すでに海上保安庁はマラッカ海域でのキャパシティビルディングを行っており、また現在、新明和工業が海上自衛隊で使っている救難飛行艇「US-2」の民間転用・輸出に向け諸手続きを進めているが、個別の努力に任せるのではなく、国のプロジェクトとして取り組むべきだ。

 また、元々は日本が国産したものでなくても、ライセンス国産をして高い稼働率を維持しているものも多い。

すでに製造が終わってしまった航空機などで、日本と同じ装備を買った国々では部品枯渇で悩む所が少なくないといい、そうした国々にとっては日本の古い装備品を長持ちさせている整備能力や、自力で製造した部品が喉から手が出るほど欲しいのである。

 こうしたラ国(ライセンス生産した国産品のこと)部品の輸出を可能にすることは購入国との関係構築、そして国内産業活性化にもなり得ることからも、現法制下で可能な範囲の検討を進めるべきであろう。さらに武器輸出三原則を本来のあるべき姿に整える作業も進めることは言うまでもない。

日本製品は高品質かつ「誠意」が込められている

すでに中国や韓国も国の投資によって相当な技術力をつけてきている。しかし、それでもまだ「日本のものが欲しい」という声は多いという。

 その理由は、アフターケアがしっかりしていて長持ちするという日本ならではの質の良さ、そして物に込められた「誠意」ではないかと、アジア事情に詳しい人から聞いたことがある。まさにマニュアルにも仕様書にも記せない、「万物に神宿る」国ならではの特徴ではないだろうか。

 先の大戦後、独立を果たしたアジアの国々は、それを手助けした日本に対して感謝と畏敬の念を今なお持ってくれているという。敗戦後10年ほどで再び日章旗を掲げて外航船が行き交う姿に「勇気をもらった」と話してくれた人もいた。

 日本人は自覚していないかもしれないが、この国のソフトパワーは世界に誇れるものなのだ。現時点では自衛隊向けのため制約も多いことから抑制している国産能力を、特定分野については輸出に向けていくべきだろう。そのために、商社の役割も重要であるし、さらなる技術発展のための国の投資も不可欠だ。

 ただ、忘れてはならないのは、アジア各国のニーズは「今」であるということだ。何年も待ってくれる話ではない。

 GDPがマイナス成長だったという記事を肩を落として読んでいる場合ではない。防衛産業という切り札はある。虎の子の潜在能力を生かして元気を取り戻すのか、それともこのまま坂を転げ落ちるのか、決めるのは「今」しかない。