「ご当地塩」もピンチに? | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【40×40】中国の海洋汚染で。山田吉彦




中国は、領土拡大の野心を持ち尖閣諸島に迫っている。その深層には、海洋権益の獲得がある。中国の狙いは、東シナ海の支配権を握ることだ。海洋権益には、海底資源、水産資源などがあるが、最も古くからの存在に「塩」がある。

 戦国時代、甲斐の武田信玄は、海へ通じる道を獲得するために今川氏の支配する駿河への侵攻をもくろんだ。都への進出の道、そして、物資の供給路として海に着目していたのだ。今川は、武田への対抗措置として塩の供給を停止した。塩を摂取することは、人間が生きるうえで不可欠である。この時、武田と敵対する上杉謙信が、甲斐の民のために塩を送ったことが「敵に塩をおくる」という故事になった。古代ローマの兵士たちは、普遍的な価値を持つ塩を給料として受け取っていた。これが、給与所得を「サラリー」という語源である。塩は、昔から海洋権益のひとつである。塩の獲得は、「国」にとって重要な施策である。日本は、この塩を専売制としていたが、2002年から販売を自由化し、多くのご当地塩が出回るようになった。

東京・四ツ谷駅前のカツレツ屋「たけだ」では、上等なロースカツに塩を振って食べる。肉の甘みが引き出されてとてもうまい。さらに後味もいい。北は稚内のオホーツクの塩から、南は与那国の塩、石垣島の塩など各地の塩を用意している。塩は産地によって成分が異なり、味も微妙に違う。私が最もとんかつと相性がいいと思う塩は、奄美のサンゴ塩だ。塩化ナトリウムに加え、カリウム、カルシウムなどさまざまなミネラル分が含まれ、塩自体にほのかな甘みを感じる。奄美大島の近海を流れる黒潮から昔ながらの製法で作ることも、うまさの秘訣(ひけつ)である。

 日本では、昔から塩は神聖なものとして扱われ、宗教行事などには欠かせないものだ。これは、塩化ナトリウムに殺菌、洗浄の作用があることに起因するのだろう。現在も、身近な保存剤として活用されている。この塩を安全に安定して得るためには、海洋環境の保全が必要だ。隣国の海洋汚染にも目を光らせなければならない。これもひとつの海洋権益の確保策である。

                                 (東海大教授)