【古事記のうんちく】(10)天の逆鉾
高千穂峰山頂にある「天の逆鉾」。坂本龍馬が見たときには、上の刃はなかったという(宮崎県高原町提供)
「かの天のさかほこを見たり。思いもよらぬ天狗(てんぐ)の面あり、大いに二人笑いたり」
慶応2(1866)年春、幕末の志士、坂本龍馬が妻のお龍と新婚旅行で訪れたのが、宮崎、鹿児島県境にある高千穂峰(標高1574メートル)。姉の乙女にあてた手紙には、「天の逆鉾(さかほこ)」を2人で引き抜いて元に戻したとつづられ、スケッチも添えていた。今も山頂には、高さ1・5メートルほどの青銅製の鉾が天に向かって突き刺さっている。
「天孫降臨」で、ニニギノミコトが高天原から地上に降ったという高千穂峰。天の逆鉾は、そのシンボルとなっている。ただし、「今の逆鉾は、龍馬が見たときのままではないんですよ」と地元・宮崎県高原町の六部一(ろくぶいち)智久主任主事が教えてくれた。江戸時代の噴火で上の3本の刃が折れたため、龍馬が見たのは、現在の逆鉾のうち刃のない下の部分という。なるほど、龍馬の手紙に描かれた逆鉾に、刃は描かれていない。
いつだれが立てたのか。江戸時代の山伏ともいわれるが定かでない。降臨の際に国家平定のため使われたが、二度と争いを起こさないとの決意を込めて刃を逆さにしたとの説もある。
麓の霧島東神社(高原町)の神宝として山頂に祭られ、2時間半ほどで登ることができるが、昨年1月の新燃岳(しんもえだけ)の噴火で、今年夏までは入山できなかった。「噴火で刃が折れたりしないか心配でしたが、灰をかぶった程度で無傷だったのでホッとしました」と六部一さん。神話の舞台は、自然の脅威にも耐え続けた。
(編集委員 小畑三秋)=おわり