中国の潜水艦は丸裸。捕捉能力は世界トップ級。
沖縄県・尖閣諸島。手前から、南小島、北小島、魚釣島
中国軍の潜水艦に対し、日本の海上自衛隊が警戒を強めている。沖縄沖で動きを活発化させていることに神経をとがらせているのだが、恐れることはないようだ。海自は一貫して鉄壁の潜水艦シフトを整えてきたため、その能力は世界トップ級との折り紙付き。GDP(国内総生産)では中国に追い抜かれたといっても、実戦で使える軍備にはまだ圧倒的な差があった。
挑発的な行動が止まらない。沖縄県の尖閣諸島周辺の日本の領海内に4日、中国国家海洋局所属の海洋監視船「海監」4隻が侵入。中国公船の領海内への侵入は3日連続で、尖閣諸島国有化後は11回目。接続水域での航行は10月20日以来、実に16日連続となった。
見えない部分でも動きを活発化させている。「尖閣を国有化した9月以来、潜水艦の影を頻繁にとらえている」と防衛省関係者。10月4日、沖縄県・宮古島沖の宮古海峡を通過した7隻には潜水艦救難艦が含まれ、「7隻の下に潜水艦がいたのは明らか」(同)という。
中国の潜水艦の動向について、『国防の常識』(角川学芸出版)などの著書がある元航空自衛隊員の軍事ジャーナリスト、鍛冶俊樹氏は「自衛隊と米軍に対抗するため整備を進めている。工作員を潜入させる際に使えるほか、米軍などの空母を撃沈させる能力もある」と分析する。
ひそかに尖閣へ接近させ、兵を上陸させることもあり得る。
中国海軍が保有する潜水艦は約60隻とされる。冷戦期から開発を進めてきた原子力潜水艦は、エンジン音の静寂化が成功していないため「音を頼りにいつでも発見できる」(海自関係者)。
問題は、静かなディーゼルエンジンの潜水艦で、ドイツなどの技術を導入しながら進化を遂げているという。
これに対し、海自は鉄壁の防御網で中国側の動きを封じ込めてきた。
主力はプロペラ機のP3C哨戒機。音響捜索機器のブイ(ソノブイ)を海に投下し、海中で動く潜水艦の動きを広範囲で察知する。現在の保有は78機。後継のジェット機、P1の開発も進んでいる。
潜水艦に対抗する哨戒ヘリコプターにはSH60J(49機)、SH60K(37機)がある。海上に出た護衛艦から飛び立ち、一定の範囲内で集中的に潜水艦へ目を光らせる。これらのP3Cとヘリコプターについて、自衛隊では「日本の空は哨戒機で“渋滞”している」と隊員が胸を張るほど、密度の濃い監視体制を構築した。もちろん、もしもの事態には魚雷による攻撃も可能だ。
「海自を一言で表現すれば『潜水艦対処部隊』で、対潜水艦の能力は世界でトップ級。戦後、日本海へ重点配備した旧ソ連に対抗し、能力を高めてきた。米軍はある意味、おんぶに抱っこといってよいほど日本を信頼してきた。中国が潜水艦の保有数を増やしたところで、日本の守りは簡単には破れない」(鍛冶氏)
ソ連は核ミサイルを発射できる潜水艦を開発したため、冷戦でにらみ合った米国は常に動きを警戒してきた。日本の対潜水艦防御網は、超大国だった旧ソ連を念頭に置いて築かれただけに極めて固い。
専門誌『軍事研究』副編集長の大久保義信氏も「今の時点では十分なアドバンテージがある」と強調する。
「確かに中国は潜水艦の能力を伸ばしている。しかし、日本との戦力差がこれまで10対1だったとしたら、10対3に縮まった程度。中国は弱いなりの見せ方がうまいので、惑わされずに日中双方の戦力を冷静に把握する必要がある。政府は、日本が優位であることを認識した上で外交を展開すべきではないか」
かつて、米国のセオドア・ルーズベルト大統領は「棍棒(こんぼう)を携え、穏やかに話せ」を外交の方針に掲げた。日本にも実は強い“棍棒”がある。政府はそれを踏まえた上で相手国に臨むべきだろう。