制服から下着まで隊員の命を守る「国家機密」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 






草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 









草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員一層奮励努力。 


               制服姿で行進する陸上自衛隊員




洋服などに糸くずが付いたとき、私たちは何気なく捨てるだろう。しかし、自衛隊の身に着けるものを製造する現場ではそうはいかない。

 私は戦闘機から靴に至るまでさまざまな防衛装備品製造の現場を見ているが、装備品の金額や大きさに関わらず、その保全意識の高さはどこも同じだと感じる。つまり、ミサイルも1本の糸も国防を支える「技術の塊」にほかならず、いずれもノウハウは「秘」中の「秘」であり、門外不出なのだ。

 被服など繊維産業の情報管理にしても非常に厳格で、自衛官の身に着けるものは、わずかな糸くずでも、この世から抹消するのだという。もし、海外に流出してまねをされるようなことになったり、難燃性など特殊な機能を分析されるようなことになれば、隊員の生命を奪うことにもなるからだ。

 それほどに重大な国家機密であるにも関わらず、あの事業仕分けにおいては「輸入してはどうか?」という議論が交わされた。

 納棺服であり、士気や誇りに関わる制服については、さすがにそういうわけにいかないと理解されたようだが、「下着類なら既製品の輸入や外国で作らせてもいいのでは?」という声もあるようだ。しかし、上衣は難燃性があってもインナーが燃えやすくていいはずがない。

 一方で「実際、自衛官は官品(支給されたもの)ではなく自分で買ったものを使ってます」といった声も聞かれることは確かだ。理由は、定期的に実施される検査の際にきちんとそろってないといけないために使わずに置いているケースや「市販の物の方が使いやすい」という理由もある。

 こうした話は、自衛隊調達品はコスト面などさまざまに妥協を余儀なくされている点や、低価格で安定的供給力が要求されていることを考慮して受け止めるべきだろう。

 東日本大震災では多くの自衛官が「1週間は下着を変えられなかった」と証言しているように、何事も平時の感覚で考えがちな私たちは自衛隊にとって、どんな小さなアイテムでも極限状態に耐え得る機能性が必要なことを忘れがちだ。一朝有事に着た切りスズメとなる彼らにとっては、靴下のほんの小さな穴ですら命取りとなりかねない。ドイツ陸軍はアフガニスタン戦で得た教訓として最重要課題に「下着」(の改善)を位置付けたというのもうなずける。

 自衛隊による発注を止めたら気の毒だというセンチメントの話ではない。自衛官の生命を保護するために何十年も研究を重ねてきたノウハウは国防上の必要性が高いのだ。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。